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野郎ども、俺はまだ生きている! 脱獄に執念を燃やす囚人の姿を描いた作品。原作は実際の体験を元に書かれたアンリ・シャリエールの小説。 スティーブ・マックイーンの脱獄モノと言えば大脱走があまりにも有名だが、本作も負けないくらいの名作ではないかと思う。ただ、脱獄という設定を基調としているが、本作に描かれているのは、2人の男の生き方の違いではないかと私は思う。 スティーブ・マックイーン演じるパピヨンは、どんな苦難があろうとも、何が何でも脱獄しようとする信念の男。片や、ダスティン・ホフマン演じるドガは、順応性がある男。どちらが良いという話ではない。ただ、変な話だが、刑務所という平等な空間では、そのコントラストは鮮明になるだろう。 そのコントラストが一層際立つのは、スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマンの共演が影響しているだろう。意外と年齢差のない両者だが、本作の製作時では俳優としての地位やキャリアの差はかなり大きかったのではないかと思う。 確固たるスターであるマックイーンと、まだまだ新進気鋭の印象が残るダスティン・ホフマン。だが、ダスティン・ホフマンは決して負けてはいない。スクリーンの中では地位やキャリアでの序列など関係ないと言わんばかりに躊躇なく豊かな才能と実力を見せ付け、演技派ならではの独特な表現力で存在感を示している。 そんなダスティン・ホフマンの演技に感化されたのかは分からないが、マックイーンの演技もこれまた実に素晴らしい。いつものマックイーンらしさは感じさせつつも、もう一歩踏み込んだ表現を用いて緊迫感を演出する。 二人を野球のピッチャーに例えるとすれば、ダスティン・ホフマンは若くも変化球を巧みに操る技巧派であり、迎え撃つマックイーンは老いても尚、速球にこだわる本格派といった感じであろうか。タイプの違う二人の俳優の演技の応酬は、本作の大きな見どころである。 本作で見せるマックイーンの老けメイクにも注目したい。キャリア半ばと言っても良いだろう、若くして亡くなったマックイーンが生きていたら、どういった俳優になっていただろう? 本作での老けメイクから想像するのは安易ではあろうが、少し感慨深いものがある。 脚本のダルトン・トランボは、共産主義者の追放、いわゆる「赤狩り」でハリウッドを追われた人物。何と彼は、そんな状況でも偽名を使ってローマの休日の脚本を手掛けている。ロマンティックなローマの休日と本作との作風の違いは驚きと共に、トランボの作家としての優れた能力を感じさせる。 ハリウッドを追われたトランボの経歴を考えれば、本作の脚本にトランボ自身の人生を反映させていたのだろうとの想像が出来る。そういった事情を踏まえると、元々実体験を元にした作品ではあるのだが、ストーリーにより一層の重みが加わる事になるだろう。 トランボは本作の冒頭、高圧的にパピヨンたちにギニアへの流刑を告げる役で出演している。どういった意図での出演であるかは分からないのだが、遊び心と皮肉が入り交じっているようで面白い。 |
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