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脱走は捕虜となった兵の任務 第二次世界大戦中、ドイツ軍捕虜収容施設から脱走を試みる連合軍兵士の奮闘を実話を元に描いた作品。 結果として似たような状況ではあるのだが、刑務所と捕虜収容施設とでは根本的に違うのではないかと思う。例えば、罪を犯して刑務所に入る。刑務所は犯した罪を償う場所であり、脱走などもってのほかなのは言うまでもない。ならば、戦争で捕虜となり収容された場合はどうなのだろうか? 本作の舞台となるのは、他の収容施設で何度も脱走を試みた、曰く付きの捕虜が集められた収容施設。捕虜たちは、新たな地でも脱走する気が満々である。ただ、彼らのその心情は、収容施設での生活の苦しさから生まれたものだけではないと私は思う。 彼らが敵軍の捕虜となったのは、厳しく言えば、任務を遂行出来なかったからなのだろう。彼らは収容された事により、任務を遂行出来なかった無念を感じている事だろう。ただ同時に、罪を犯して服役しているという感覚には到底至らず、ある意味、謂れ無い状況での理不尽さも感じているのではないかと思う。彼らは脱走を企てているといっても、逃げるのではない。この状況を打破する為に戦っているのである。 彼らが脱走を成功した後に、再び戦地に赴くのかは分からない。だが、少なくとも、捕虜でいる間、脱走を試みている間は、戦闘行為はしなくとも、もしかすると捕虜になる前に戦闘行為をしていた時以上に、個人的な心情も含んだ、明確な信念を持って戦う戦士なのではないかと思う。 3時間近い長丁場ではあるが、飽きる事なく時を進ませる本作は、傑作の誉れに相応しい作品だと言えるだろう。本作のポイントとなるのは時代だと私は思う。現代のハイテクの力など何ひとつ及ばないアナログな状況は、人間の持つ知恵の素晴らしさを鮮明に感じさせる。そして彼らが、統率を重んじる軍人である事も良い効果をもたらしている。難関に立ち向かう術として用いるアイデアとチームワークの素晴らしさには感心させられる。 また、女性キャストがひとりも登場しない本作だが、男臭く、重々しくなっていないのも特徴であろう。それは、爽快感を覚える有名なテーマ曲が作品の方向性を暗示していると言えるのかも知れない。ところどころに見られる茶目っ気は、抜群なセンスで発揮され、心を和ませる役割を果たしている。 但し、それだけで終わらせないのも本作の秀でた点である。物語が進むに連れ、登場人物の個人的な事情が顔を見せ始める。その辺りのダークな部分もしっかりと描いている事で、長尺に見合った広がりを作品に与えていると言えるだろう。 本作と言えば、真っ先にスティーブ・マックイーンを思い浮かべるのが一般的だと思うが、内容は彼中心に描かれている訳ではない。マックイーンが主役であるのは間違いないが、断じて彼一人が主役ではなく、主役が多数共存する作品だと言えるのではないかと思う。 ジェームズ・ガーナー演じるヘンドリーは、マックイーン演じるヒルツ以上にオーソドックスな主役らしさを感じさせるし、チャールズ・ブロンソンやリチャード・アッテンボロー等、見せ場の多いキャストも多く、場面場面で主役が交代するような趣きを感じさせる。このスタイルは、本作と同じくジョン・スタージェスが監督し、マックイーン他、本作とキャストの共通性がある荒野の七人と同じだと言えるのかも知れない。 もちろん、マックイーンが作品に埋もれている訳ではない。マックイーンの代名詞と呼べるオートバイでのジャンプシーンは本作に存在する。但し、ジャンプシーンはスタントマンが演じたらしい。マックイーン自身は吹き替えなしで演じる事を望んだらしいが、危険性を考え、実現しなかったらしい。 だが、吹き替えなしで行なわれたオートバイシーンで、マックイーンのテクニックは確認出来る。リアタイヤをスライドさせながらオートバイを操る姿を見れば、マックイーンが優れたライダーであると実感させられるだろう。 そのオートバイの腕を買われてか、逆にマックイーンがドイツ兵役のスタントをこなしているらしい。オートバイで逃げるマックイーン演じるヒルツを追うのが、マックイーン演じるドイツ兵だったというのは何とも愉快な裏話である。 アクションシーンだけがマックイーンの見どころではない。幾度の失敗にもへこたれずに、新たな挑戦に果敢に挑む姿は、清々しい男らしさ覚えるのと同時に、実にマックイーンらしいと言えるだろう。 |
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