自分勝手な映画批評
007/慰めの報酬 007/慰めの報酬
2008 イギリス/アメリカ 106分
監督/マーク・フォースター
出演/ダニエル・クレイグ オルガ・キュリレンコ マチュー・アマルリック
アルファロメオに乗る追っ手に追撃されながらも、何とか振り切り、イタリア・シエナのアジトに辿り着くジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)。彼の乗っていたアストン・マーチンのトランクには、ヴェスパー(エヴァ・グリーン)に関係していたホワイト(イェスパー・クリステンセン)が詰め込まれていた。

宛てのない怒りを懐に潜め…

シリーズ第22作。本作はシリーズ初の試みである続編であり、前作カジノ・ロワイヤルの終了直後に物語はスタートする。前作と本作の間には、僅かばかりの空白はあるのだが、その隙間を想像するのは容易いだろう。ピッタリと接続させなかったのは、新しいシリーズが持つセンスのようにも感じる。

本作にはシリーズの決め台詞である「ボンド、ジェームズ・ボンド」と自らの名を名乗るシーンが存在しない。しかし、その台詞は前作のラストに存在する。私なりの見解だが、この台詞が2つの作品を繋げ合わせる役割を果たし、2作で1つの物語という事を印象づけているように思う。

ただ、1つの物語を2つに分けたと言うよりも、2つの物語を1つに繋げたような印象を私は持った。だからと言って、もちろん1本筋は通っているので、無理矢理くっつけたという訳ではなく、両作とも、それぞれに見応えもボリュームもあるという意味だと理解して欲しい。

続編なので、前作での設定をそのまま持ち込めるのは良い点であろう。特に登場人物のキャラクターに広がりを感じられるのは面白い。

だが、そんな中、逆に割を食ったのはボンドガールのオルガ・キュリレンコではないかと思う。2作続けて、しかも前後作で同じタイプのヒロインは使えないだろう。しかも前作のエヴァ・グリーンがボンドガールの良いところを随分と使い果たしてしまったような気がする。

小麦色の肌が印象的な本作のオルガ・キュリレンコに、残念ながらセックスアピールは、ほぼ無い。しかし、そんな悪条件でも彼女は立派に演じている。似たような目的を持つ、同志とも言える彼女の存在が、ある意味ボンドを勇気づけ、ある意味ボンドを冷静にさせたのではないかと思う。

そんなボンドガールとの関係が象徴しているようにも感じるのだが、ボンドの鉄の鎧に包まれたようなポーカーフェイスの裏側に見え隠れする人間味ある感情、それが前作では愛情だったのに対し本作では友情が感じとれる。ひとつひとつ明らかになる、あるいは成長して行くボンドを感じられるのは、シリーズをリセットした醍醐味であろう。

前作にアクションがなかった訳ではないのだが、本作は特にその面を重視しているように感じる。のっけから、壮絶なカーチェイス。接写を多用し、カット割りが異様に多いアクションシーンは、まるでカメラが追いつけないと錯覚するようなスピード感と慌ただしさを感じさせ、大迫力と臨場感を同時にもたらす。

そして、そのアクションシーンにニュー・ボンドのダニエル・クレイグが生きてくる。本作前半で、彼がオートバイに乗るシーンがあるのだが、服装の色合いが似ている事も影響しているのかも知れないが、その姿は大脱走のスティーブ・マックイーンを思い出させた。それだけで判断するのは強引ではあるのだが、元々、髪の色等、従来のボンドの設定とは違う面を持つダニエル・クレイグではあったが、改めて、今までのボンド像とは異なるイメージを実感した。

ダニエル・クレイグには今までのボンドにはない、ストイックなアスリートのような雰囲気を感じる。そういったキャラクターには現代風味の素早く激しいアクションが良く似合う。さらには、演出・映像処理の妙も相まって、今まで以上の迫力をもたらしているのではないかと思う。

アクションシーンに限らず、その他の演出も非常にセンス良くまとめられている。前作でもスタイリッシュなイメージは感じたのだが、本作はさらに突き詰めている。コントラストを用いる手法は、どことなくゴッドファーザーを思わせる。明と暗の描写は美しくも寂し気な情緒を感じさせると共に、そのクオリティーの高さは荘厳さとスケールの大きさも漂わせる。

そういった点を総合すると本作は、前作で提示した新しい007の世界を、あらゆる面で、さらにもう一歩発展させた描き方をしているように感じた。前作で見応えを感じた心理の応酬は薄まってしまったが、アクション・演出・映像等の見せ方に関しては前作よりも熟成させたセンスと工夫が感じられ、結果も得られていると思う。

前作以上に単独で突っ走る為、前作以上に厄介者、もっと言えば厄病神にさえなったジェームズ・ボンド。若さゆえなのか、それともニュー・ボンドのキャラクターなのか、クールな表情を崩さないまま、信念を貫き通し突き進んで行く。


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