自分勝手な映画批評
007/カジノ・ロワイヤル 007/カジノ・ロワイヤル
2006 イギリス/アメリカ/ドイツ/チェコ 144分
監督/マーティン・キャンベル
出演/ダニエル・クレイグ エヴァ・グリーン マッツ・ミケルセン
チェコ共和国のプラハ。ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は背任行為をしていたMI6の局長ドライデン(マルコム・シンクレア)を射殺した。これでボンドはダブル・オー・エージェントへの昇格条件となる2度目の殺人任務を実行したのだが、2度目の殺人は1度目よりもずっと楽だった。

君の氷のハートは溶けたか?

イギリス情報部MI6の諜報員ジェームズ・ボンドの活躍を描いたスパイアクション作品。 映画007シリーズの第21作目であり、6代目ジェームズ・ボンドに任命されたダニエル・クレイグにとっては初めての作品。

本来ならば御法度の主役のジェームズ・ボンドを演じる俳優の変更を今までに何度も行ってきた映画007シリーズ。ボンドを演じる俳優が変われば当然、シリーズに変化はあるのだが、シリーズの根幹は踏襲されて来た。しかし、本作は過去の20作品との繋がりを潔く断った。本作は正真正銘、映画007シリーズをリブートした作品だ。





ウガンダのムバレでル・シッフルはホワイトの仲介で自由の闘士たちに確実な投資サービスを提供しているという男、オバンノから現金で多額の融資を受ける。その場で早速、ル・シッフルは航空機メーカー、スカイフリートの株を100万株空売りする事を支持するのだった。一方、ジェームズ・ボンドはマダガスカルで爆弾犯を監視する任務を遂行していた。しかし、爆弾犯は監視に気付き、逃走。ボンドは追うが、爆弾犯はナムブツという国の大使館に逃げ込んでしまう。本来ならば、大使館の中に許可なく足を踏み入れてはならないのだが、ボンドは躊躇なく侵入。大使館の警備の抵抗にあいながらもボンドは爆弾犯を確保する。しかし、大使館の警備たちに取り囲まれてしまう。そこでボンドは爆弾犯を射殺、ガスボンベを撃って爆発させ、その隙に大使館から脱出した。ボンドは脱出の際に爆弾犯のバッグを持って来たのだが、その中から携帯電話を取り出し、「エリプシス」という着信履歴を見つけるのだった。





007をリブートした本作は、ボンドがコードネーム007の諜報部員に就任したところからスタートする。 なので、本作のボンドはキャリアのない、若くて駆け出しの007。この事がリブートした最大の意味であり、効果だと言える。

前作までのボンドはキャラクターが完成されており、しかも、そのキャラクターは完璧で、言ってみればスーパーマン。 頭脳明晰で知識も豊富、気転がきき、身体能力も高く、精神的にもタフ。加えてユーモアのセンスもあり、フェミニストで女性にモテる。何よりスマートであり、絶体絶命を職場とするにも関わらず、難儀を何食わぬ顔で、時にはジョークや笑みを交えながらこなすのが従来のボンドだった。

だが、若きボンドはスーパーマンではない。時系列は逆になるのだが、前作までのボンド像に繋がるような面も垣間見れるのだが、基本的には、それが功名心なのか、ボンド本来の資質なのかは分からないが、無鉄砲に突っ走り、貪欲に結果を求める新人なのだ。冒頭の、まるで「太陽にほえろ」のように走りまくるボンドを見るだけで、今までとの違いは如実に感じとれるだろう。

目一杯に身体を使い、汗ばみ、傷を負い、時には泥臭く感じるアクションだからこそ、観る者にスパイアクション作品の醍醐味であるスリルを臨場感を伴ってもたらすのだと思う。それが本作のボンドにはある。しかも、本作のボンドは冷徹に思える程クール。その事はスパイ稼業の過酷さを示す効果を与え、尚かつ、シリアスでスリリングな展開にも好都合であろう。

しかし、それではボンドとして成立しない。いくら我武者羅であっても粗野ではなく、気品も合わせ持っていなければならない。ダニエル・クレイグのボンドもその事は忘れず、ハードな部分を前面にだしつつ、それを踏まえた上で、今までのボンドとは違う気高さを持ち込んでいる。

もうひとつポイントとなるのが、本作には007特有の秘密兵器が登場しない事だ。わざわざ秘密兵器を持ち出さなくてもボンドは、そのキャラクターだけで十分に魅力的だと私は思う。また、多機能な携帯電話をはじめ、昔ならばボンドしか持ち得ないアイテムが一般に流通し氾濫している現代では、それらを駆使するだけで、十分魅力的な世界を創造出来ると私は思う。そして何よりその方が、リアリティーを持って鑑賞出来るのではないかと思う。

シリーズをリブートするにあたり、原作小説の第1作目が(映画007シリーズに含まれない映像作品は存在するが)今まで手付かずだったのは、結果として幸いだったと思う。 但し、古い本棚から引っぱりだして来たストーリーは、正直、少々強引に思える節もある。しかし男のプライドが描かれていると解釈すれば良いのだろう。ボンドと敵役ル・シッフルのアクションではない攻防は、緊迫した大人の味わいを感じさせる。

忘れてならないのは、ボンドガール・ヴェスパーを演じたエヴァ・グリーンの存在だ。彼女のゴージャスで妖艶な色気は、本作を彩る上で、十分過ぎる程に際立つ。そんな彼女とボンドとの関係は、ル・シッフルとの心理戦以上に見応えを感じる。

作品をジャンル分けするなら、前作までは007という特別なジャンルに属していただろう。もちろん、それは悪いことではなく、作品として何よりも尊ばれる、唯一無二である事を示す証となるだろう。だが、固執し過ぎた独自性には悪い面も存在する。 残念ながら映画007シリーズは、いつのまにか浮世離れしてしまった。

昔ながらのファンの中には、余裕も秘密兵器もない本作を、007を骨抜きにされたと感じる人がいるのかも知れない。しかし、それでも私はボンドのキャラクターの骨格は残っていると思うし、シェイプされた分、今までなかった要素を上手い具合に露出し、さらなる高みに到達したのではないかと思う。

007が持つネームバリューと本作のグラマラスな雰囲気の所為かも知れないが、私は、従来のイメージの良いところを残しつつ、時代やニーズに合わせて、大胆に方向転換した高級ブランドに似た感覚を本作に持った。その顔となるのがクレイグ。本作を観れば、クレイグなくしてリブートはあり得なかったと実感出来る。



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