自分勝手な映画批評
007/カジノ・ロワイヤル 007/カジノ・ロワイヤル
2006 イギリス/アメリカ/ドイツ/チェコ 144分
監督/マーティン・キャンベル
出演/ダニエル・クレイグ エヴァ・グリーン マッツ・ミケルセン
チェコ共和国のプラハ。ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は昇格の条件をクリアし、007となる。

ニュー007デビュー!

シリーズ第21作目。6代目ジェームズ・ボンドに任命されたダニエル・クレイグにとっては初めての作品。

007シリーズの作風を大幅にリニューアルした作品だと言えるだろう。本来なら御法度である、主役のジェームズ・ボンドを演じる俳優の変更を、今までに何度も行ってきた007シリーズなので、今さらリニューアルという表現は不適当なのかも知れないが、それまでの変更がマイナーチェンジに思える程、本作では作風が一新している。

前作までは、いくら演じる俳優が変わっても、ジェームズ・ボンドの設定自体は受け継がれて来た。しかし本作は、その設定をすべてリセットし、ジェームズ・ボンドがコードネーム007の諜報部員に就任したところから物語はスタートする。

なので、本作のジェームズ・ボンドはキャリアのない、若くて駆け出しのスパイなのである。この事は、単なるリスタートの意味だけには留まらない、良い作用をもたらしていると私は感じる。

前作までのジェームズ・ボンドはキャラクターが完成されており、しかも、そのキャラクターは完璧。言ってみればスーパーマンである。

頭脳明晰で知識も豊富、気転がきき、身体能力も高く、精神的にもタフ。加えてユーモアのセンスもあり、フェミニストで女性にモテる。何よりジェームズ・ボンドはスマートである。絶体絶命を職場とするにも関わらず、難儀を何食わぬ顔で、時にはジョークや笑みを交えながらこなすのがジェームズ・ボンドなのだと思う。

だが、若きジェームズ・ボンドに余裕はない。時系列は逆になるのだが、前作までのボンド像に繋がるような面も垣間見れるのだが、基本的には、それが功名心なのか、彼本来の資質なのかは分からないが、無鉄砲に突っ走り、貪欲に結果を求める新人スパイなのである。冒頭の、まるで「太陽にほえろ」のように走りまくるジェームズ・ボンドを見るだけで、今までとの違いは如実に感じとれるだろう。

目一杯身体を使い、汗ばみ、時には泥臭く感じるアクションだからこそ、観る者にスパイアクション作品の醍醐味であるスリルを臨場感を伴ってもたらすのだと思う。しかも、本作のジェームズ・ボンドは冷徹に思える程クールである。その事はスパイ稼業の過酷さを示す効果を与え、尚かつ、シリアスでスリリングな展開にも好都合であろう。

しかし、それではジェームズ・ボンドとして成立しない。いくら我武者羅であっても粗野ではなく、気品も合わせ持っていなければならないだろう。ダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドもその事は忘れず、ハードな部分を前面にだしつつ、それを踏まえた上で、今までのジェームズ・ボンドとは違う気高さを持ち込んでいる。

もうひとつポイントとなるのが、本作には007特有の秘密兵器が登場しない事だ。わざわざ秘密兵器を持ち出さなくてもジェームズ・ボンドは、そのキャラクターだけで十分に魅力的だと私は思う。また、多機能な携帯電話をはじめ、昔ならジェームズ・ボンドしか持ち得ないアイテムが一般に流通し氾濫している現代では、それらを駆使するだけで、十分魅力的な世界を創造出来ると私は思う。そして何よりその方が、リアリティーを持って鑑賞出来るのではないかと思う。

シリーズのリニューアルにあたり、原作小説の第1作目が(007シリーズに含まれない映像作品は存在するが)今まで手付かずだったのは、先を見越していたのか、偶然なのかは分からないが、結果として幸いだったと思う。

但し、古い本棚から引っぱりだして来たストーリーは、正直、少々強引に思える節もある。しかし男のプライドが描かれていると解釈すれば良いのだと思う。アクションではないジェームズ・ボンドと敵役ル・シッフルの攻防は、緊迫した大人の味わいを感じさせる。

忘れてならないのは、ボンドガール・ヴェスパーを演じたエヴァ・グリーンの存在だ。彼女のゴージャスで妖艶な色気は、本作を彩る上で、十分過ぎる程に際立つ。そんな彼女とジェームズ・ボンドとの関係は、ル・シッフルとの心理戦以上に見応えを感じる。

作品をジャンル分けするなら、前作までは007という特別なジャンルに属していただろう。もちろん、それは悪いことではなく、作品として何よりも尊ばれる、唯一無二である事を示す証となるだろう。だが、固執し過ぎた独自性には悪い面も存在するだろう。

ファンの中には、余裕も秘密兵器もない本作を、007を骨抜きにされたと感じる人がいるのかも知れない。しかし、それでも私はジェームズ・ボンドのキャラクターの骨格は残っていると思うし、シェイプされた分、今までなかった要素を上手い具合に吸収し、さらなる高みに到達したのではないかと思う。

007が持つネームバリューと本作のグラマラスな雰囲気の所為かも知れないが、私は、従来のイメージの良いところを残しつつ、時代やニーズに合わせて、大胆に方向転換した高級ブランドに似た感覚を本作に持った。その方針の顔となるダニエル・クレイグは、今時の作風に適した俳優ではないかと思う。

007というジャンルから離れ、他と同じ土俵で勝負した本作は、多くの人を魅了するのではないかと思う。


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