自分勝手な映画批評
ゴーストライター ゴーストライター
2010 フランス/ドイツ/イギリス 124分
監督/ロマン・ポランスキー
出演/ユアン・マクレガー ピアース・ブロスナン オリヴィア・ウィリアムズ
夜、1隻のフェリーが島の港に到着した。積載されていた車は一斉に島へと降りたのだが、1台の車だけ運転手が見当たらずに放置されていた。

Uターンしてください

元イギリス首相の自伝を代筆する事になった男が、巨大な闇の事情へと巻き込まれて行く様子を描いた作品。原作はロバート・ハリスの小説。ハリスは監督のロマン・ポランスキーと共同で本作の脚本も務めている。

ゴーストライターを主人公とする本作の設定上で、欠かせない登場人物がイギリスの元首相ラングである。そのラングを演じるのはピアース・ブロスナン。ジェームズ・ボンドだったブロスナンがイギリス首相を演じるのは、中々面白い巡り合わせのように感じる。

但し、ただ面白いだけではない。ブロスナンには、本作より数年前の「カジノ・ロワイヤル」での007の大幅なリニューアルの際に、ボンド役の続投を熱望したのだが叶わなかった過去がある。そういった事、更にはラングのキャラクターも踏まえると、皮肉にさえも感じてしまうキャスティングである。

ゴーストライターを生業としているイギリス人の男(氏名不詳、以下ゴースト)に代理人のリックが、イギリスの元首相アダム・ラングの自伝を代筆する仕事を持って来た。この仕事が舞い込んできたのは、すでに自伝の執筆は行なわれていたのだが、その仕上がりが芳しくなく、しかも代筆していたゴーストライターのマカラという男が溺死した為だった。ゴーストライターに相応しいのか、出版元のラインハルト出版社で面接を受けるゴースト。飾らない主張が気に入られ、晴れてゴーストはラングのゴーストライターとなるのだった。ゴーストは面接を終了した帰り際に、ラングの弁護士のクロールから読んで感想を聞かせて欲しいと大量の原稿を渡された。だが、ゴーストは自宅へと帰宅する直前に何者かに襲われ、その原稿を奪われてしまった。自伝の代筆は、現在ラングが滞在しているアメリカの孤島で行なわなければならないのが条件。ゴーストは代理人のリックに何者かに襲われて原稿を奪われた事を話すのだが、リックは25万ドルを得られる仕事なので今すぐアメリカへ向かへとゴーストに諭すのだった。アメリカへ向かおうとするゴーストが、空港のバーでフライトを待っていると、テレビにラングのニュースが映し出された。そのニュースとは、ラングがイギリスの特殊部隊を勝手に動かしてアルカイダの容疑者4名を捕獲し、その4名をCIAに引き渡して拷問した違法行為の疑い。ニュースを聞きゴーストは、この仕事に対する不信感を募らせるのだった。

主として舞台となるのはラング元首相が広大な屋敷を構えるアメリカの孤島。そこは閑静なリゾート地といった感じであり、ラングの屋敷はシックに統一されており、実にスタイリッシュである。

但し、景色は常に日光の当たらない曇り空であり、時には雨も降り注ぐ。そんな舞台は、どこか金田一耕助な世界、例えば「犬神家の一族」の舞台に似たような雰囲気を感じさせる。あそこまで、おどろおどろしくはない。ただ、何かが起きそうな気配は、プンプンと臭ってくるのである。

何かを予感させるムードはミステリーの演出としては最高だ。そして肝心のシナリオ自体も非常にミステリーが充実している。決して派手な印象は残す訳ではないのだが、その事で却ってミステリー本来の味わいを感じる事が出来る。本作は社会性を伴う質実で骨太、そして壮大なミステリーである。

ハイレベルなミステリーに導いたのは、ストーリー展開と演出の周到な熟練技に因るところが大きいのだが、ゴーストライターを主人公にした事も一枚噛んでいると思う。この職業、実はミステリーとの相性が良い事に本作で気付かされた。

秘部に踏み込める職業の性質はもとより、身代わりという立場上、洞察力や客観力が不可欠な資質である事が上手くミステリーを展開させている。更には、他で取り上げる事がない、ユニークな職業の新鮮味も先が読めない状況で効力を発揮していると言えるだろう。

ストーリーでキーとなるのはアメリカ合衆国の存在感だ。日本人なら否応無しにアメリカの影響力を感じていると思うのだが、それは他の国でもどうやら一緒のようだ。もちろん、イギリスとアメリカの関係が日本とアメリカの関係に、そのまま重なる訳ではない。しかし、アメリカの影響力を肌身に感じていれば、本作を身近に感じる事が出来るだろう。

暗中模索なストーリーは、必ずしも手厚く観る者を誘導してはくれない。思わせ振りなトラップも、いくつか仕掛けられている。ただ、そういった困難をくぐり抜けて辿り着いたクライマックスには、格別な満足感が待ち構えている。確かな見応えをもたらす、秀作ミステリーだと私は思う。


>>HOME
>>閉じる







★前田有一の超映画批評★

おすすめ映画情報-シネマメモ