自分勝手な映画批評
犬神家の一族 犬神家の一族
1976 日本 146分
監督/市川崑
出演/石坂浩二 高峰三枝子 島田陽子 小沢栄太郎
犬神佐兵衛(三國連太郎)の臨終の場で家族を代表して佐兵衛から遺言を聞きだそうとする長女の松子(高峰三枝子)。すると佐兵衛は、その場に同席している弁護士の古館(小沢栄太郎)を指差した。遺言状はすでに作成されており、古館が保管していた。

偶然です、恐ろしい偶然です

原作は横溝正史の小説。遺産相続の騒動に端を発する連続殺人事件の模様を描いたミステリー。

本作は、本作以降より1980年代全般で映画界、更には社会的にも大きな存在感を示した角川映画の第一作目の作品である。本作の特徴である著名を集めた豪華な造りは、大手出版社が母体の新プロジェクトの意気込みの表れのようであり、また、後の栄華を予感させるようでもある。特にキャストは、もったいないと言いたくなるほど贅沢な使われ方がされている。

製薬会社を設立し、一代で富と名声を築き上げた犬神佐兵衛が昭和22年2月に死亡した。莫大な遺産の行方は遺言状に記されていたのだが、遺言状の開封・発表は佐兵衛の意向により佐兵衛の血縁がすべて揃っている場である事が条件になっており、佐兵衛の死亡時には佐兵衛の長女・松子の息子・佐清が不在な為に条件を満たさず、開封・発表されずじまいであった。佐兵衛の死から7ケ月後、犬神家の顧問弁護士・古館の助手をする若林という男より犬神家に関する依頼を受けた探偵の金田一耕助は、当地である那須市に赴く。しかし、依頼人の若林は金田一が宿泊する旅館で金田一を待っている間に何者かに毒殺されてしまった。

とにかくミステリーとサスペンスが目一杯に詰まった作品である。少々誇張した表現ではあるのだが、毎シーンごとにミステリーとサスペンスが存在するような趣きで本作は進んで行く。そういった意味では無駄なシーンは1つもなく、すべてがミステリーの本道に直結していると言えるだろう。但し、その本道は見渡しの良い一本道ではない。見通しの悪い、曲がりくねったワインディングロードである。

ミステリーを豊潤にしているのは、登場人物が多い事が影響していると言えるだろう。骨肉の相続争いをしているのは大家族で、しかも血縁が複雑であるのでややこしく、ともすれば混迷を来す可能性もあるだろう。しかし、刮目さえしていれば何ら問題はない。気を抜いて本作に臨まない限り、おどろおどろしいサスペンスで塗り固められたミステリーの迷宮を存分に堪能する事が出来るだろう。

金田一耕助を主人公とした物語は映像化されただけでも数多くあり、演じた俳優も様々なのだが、私の中では石坂浩二が演じた金田一が一番しっくりくる。率直に言えば、少なくとも本作の金田一は随分と呑気な名探偵な気もする。だが、却ってその事で皮肉にもミステリーが深まりサスペンスを強くさせ、作品を面白くさせていると言えるだろう。そして、その呑気さ加減が若き石坂のインテリジェンスが滲み出る甘いムードにマッチしているように思う。

その他の豪華絢爛なキャストの確かな仕事振りも本作の見どころである。さすがの貫禄の高峰三枝子、美しきヒロインの島田陽子等、挙げればキリがないのだが、中でも出番は少ないが味わいある演技で魅せる三木のり平と、本作の唯一のオアシスである若さがはじける可愛らしい坂口良子は特に印象に残った。

テレビドラマの「古畑任三郎」等に影響を与えたのではないかと想像する、ユニークなレイアウトのオープニングのクレジットも見もの。使用されている明朝体は、どちらかと言えば実用的な書体なのだが、その性質を活かしつつも創意工夫でアートの領域まで引き上げた手腕は見事である。しかも作風が凝縮されているのが素晴らしい。本作の特色である作品全体を包み込む日本的な情緒を明朝体のレイアウトのみに託し、シンプルでシンボリック、且つ適格に表現するセンスは殊更感心させられる。

音楽を担当しているのは「ルパン三世」で馴染みの深い大野雄二。そのキャリアを知っていたからなのかも知れないが、湖畔を舞台とする物語で大野特有の旋律と音色が耳に入り込むと、どことなくカリオストロの城が思い浮かんでしまうのが面白い。

本作より30年後の2006年、市川崑はセルフリメイクで本作を再び制作している。


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