自分勝手な映画批評
グラン・トリノ グラン・トリノ
2008 アメリカ 117分
監督/クリント・イーストウッド
出演/クリント・イーストウッド ビー・ヴァン アーニー・ハー
ウォルト(クリント・イーストウッド)の妻が亡くなり、葬儀の場で離れて暮らしている家族が顔を合わせる。だが、偏屈なウォルトと息子や孫達は、まったく反りが合わない。

監督イーストウッドが、俳優イーストウッドに用意したラストシーン

妻を亡くし独り暮しの偏屈な老人と、隣に住むモン族の姉弟との交流を描いた作品。

本作はクリント・イーストウッド主演だから価値ある作品ではないかと思う。主人公は、まるでタイムスリップして来た骨董品のような男。乱れた現代社会に取り残された、頑固一徹な老いた男の姿が本作には描かれている。

口悪く言えば、時代遅れとも感じる安っぽいストーリーだ。時代錯誤な男が主人公ならば、ストーリーも自ずと時代錯誤になってくる。それは、老人を主人公にしているので仕方のない事だとも言えるが、それでも、頑固者を柱にしたが為の、半ば強引とも思えるストーリー展開は、現代の感覚では、多少なりとも違和感を覚えるのではないかと思う。

だが、それこそが本作の真髄である。その時代錯誤なストーリー展開に、イーストウッドの今までのキャリアが活きるのである。偏屈な老人は今までイーストウッドが演じてきたキャラクター以外の何者でもない。

イーストウッドは以前、許されざる者で自分の演じて来たキャラクターを意識させた。老いて錆ついたガンマンは、彼が若い頃に演じたニヒルなガンマンの成れの果てと結び付ける事が出来るだろう。本作でもこの手法が用いられている。偏屈な老人は、ガンマンがさらに年老いた姿、あるいはダーティハリーの行く末と受け取っても良いのではないかと思う。

本作は、イーストウッドだから成し得た、裏返せばイーストウッドだから許される作品だと言えよう。本作のキャラクターにキャリアが見事にシンクロする。だからこそ重みと深みをもたらしているのだと思う。

月日の流れに取り残された不器用な男は、年老いたアウトローとして、居心地悪くひとり、現代を生きる。そんな時に出会った若くて瑞々しい生命力。岩のように固く閉ざされた心は、次第に解きほぐされて行く。

だからといって、今まで貫いた姿勢を覆す訳ではない。もしかしたら、覆す事が出来ないとも言えるのかも知れない。アウトローは自らのやり方で決着をつける。彼が最後に見つけた尊い宝の為に。それは同時に、自分に対する落とし前でもあるのだろう。

ストイックなヒーローは本作でも健在である。だからこそ頑な生きざまが、切なくも感動を呼び起こす。


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