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バカな男ね 夫の浮気を疑う主婦の憂鬱な日常を描いた作品。 本作はフェデリコ・フェリーニ監督の初のカラー長編となる作品らしい。本作が随分と古い作品である事に違いはない。だが、それでも本作公開当時には、すでにカラー作品は多く製作されていた。つまりフェリーニが映像をモノクロからカラーへシフトするのには、かなりの足踏みがあったのである。 これはチャールズ・チャップリンがサイレントからトーキーへの移行に時間がかかった状況と似ているような気がする。カラーにせよトーキーにせよ、表現の幅が広がる手段を手にした方が良いのではないかと簡単に思ってしまうのだが、トップクリエーターの彼らには私のような凡人には分からないこだわりがあったのだろう。そして時の流れと自分の表現方法との間に苦悩や葛藤もあった事だろう。 ともあれ本作は、フェリーニが初めてカラー長編に挑んだ記念すべき作品である。また同時に、それまでの鬱積が一気に解放されたかのように、映像がカラフルで鮮やかに発色している作品であり、その事が大きな特色となる作品である。 結婚15周年記念の日の夜を夫婦水入らずでロマンティックに過ごす事を楽しみにしていたジュリエッタ。しかし夫のジョルジョは友人を多く連れて帰宅し、水入らずどころかパーティーが始まってしまった。しかもジュリエッタは、その場にいた霊媒師が呼び寄せた霊から「お前はつまらない無価値な人間だ、消えてしまえ」と言われてしまう始末であった。翌日の夜、ジュリエッタは隣で寝ているジョルジョが寝言で「ガブリエッラ」と知らない女の名前をつぶやいたのを耳にする。 主婦を主人公に現実と非現実が交錯しているように描かれている本作は、同じくフェリーニが監督した8 1/2の女性版と言えるような作品である。もしかするとフェリーニは8 1/2でやり残した事があったと感じていたのかも知れない。 設定こそ違えど同じような手法で本作を製作した事は、カラー映像の世界へ足を踏み入れた事と関係あるようにも感じられる。確かに幻想的な世界を描くにはカラーである方が都合が良く、有利でもあるだろう。そう考えると本作の成り立ちが一層興味深く感じられる。 更に興味深いのは、主人公のジュリエッタを演じるのがフェリーニの実際の妻であるジュリエッタ・マシーナである点である。 映画監督を主人公にした8 1/2はフェリーニが自身を語っていると解釈出来るような作品であった。その解釈に基づけば、ジュリエッタという名前をそのまま役名にした本作がマシーナを描いていると考えても何ら不思議ではないだろう。 但し、マシーナは脚本に携わっている訳ではなく、あくまでも演者である。なのでマシーナの意思が、そのまま本作に込められているとは考えにくい。だが、作品内容を考えてみればマシーナ、ひいてはフェリーニ夫婦の関係に当てはめて色々と想像してしまいがちな作品である。 身勝手な夫に悩む妻の姿を描いた本作は、8 1/2の裏側を描いているとも受け取れる。そういった意味では8 1/2の単なる女性版というよりも8 1/2のアンサーソングならぬアンサームービーとなる作品であり、8 1/2の対(つい)となる作品だと言えるのかも知れない。 微妙な心理を幻想的な映像で描いた本作は単体でも美しい作品だと思う。ただ、8 1/2と合わせて観ると本作の価値は、より高まるのではないかと思う。 |
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★前田有一の超映画批評★ |
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