|
||||||||||||
鼻が邪魔だわ 原作はアーネスト・ヘミングウェイの小説「誰がために鐘は鳴る」。スペイン内戦での山岳ゲリラ部隊の様子を描いた作品。 本作の背景にあるスペイン内戦は1936年1月から1939年3月にスペイン共和国政府(人民戦線政府)と反政府の反乱軍とが争ったスペイン国内の戦争。但し、国内だけの様相に留まらず、双方共に他国の指示・支援があった。原作者のヘミングウェイは、この戦争に共和国政府により編成された国際旅団の一員として参加している。 スペイン内戦には様々な見解があるようだが、本作はファシズムと反ファシズムという構図で基本的に描かれていると言えるだろう。但し、本作はスペイン内戦を大局的に描いている訳ではない。もっと個人レベルの問題として戦争を見つめている。 外国人でありながら、自らの信念を貫く為に共和国派の義勇兵となってスペイン内戦を戦うロベルト。列車爆破の任務を成功させたロベルトはゴルツ将軍より次の任務、攻撃を援護する為に敵の唯一の援軍ルートである渓谷に架かる橋を爆破する重要な任務を命じられる。案内役のアンセルモという老人と一緒に現場となる橋の近くの山岳ゲリラに合流するロベルト。そこでロベルトはボスのパブロをはじめとするクセ者だらけのゲリラのメンバー、そして、その中では異質な若き女性、ゲリラに助け出されたマリアと出会うのだった。 本作で描かれている戦争と恋愛は、どちらもエンターテインメントとしては重宝したい題材である。どちらか1つでも見応え十分なのに、2つも抱えている本作は何とも贅沢だ。だが、意地悪い見解を示せば、多くの人が欲するからといって相反するような要素を詰め込むのはあざとく、更には安っぽく感じてしまう可能性もあるだろう。 だだ、その辺りの杞憂は本作はクリアしていると思う。本作の軸足は戦争にある。その過酷さを強調する術として恋愛を用いていると考えても良いだろう。この仕組み、あるいは作風は松本零士原作のアニメーション作品「宇宙戦艦ヤマト」「銀河鉄道999」等に似ているように思う。 山岳地帯で活動する少人数のゲリラ部隊。この描写が実に上手く表現されている。過酷な場所での過酷な状況。皆、顔を真っ黒にしながら最前線の緊張の中で息を潜めて細々と暮らす。そんな日常では人間心理、人間関係が歪んでしまうのも致し方なく、仲間内ではありながらも淀んだ空気が立ち篭めている。 せめぎ合うエゴとプライド。それは対人だけではなく、自らの中にも葛藤としても現れる。極限の地では正誤を判断するのは容易ではない。本当なら一枚岩でならなければいけない集団が見せる綻び。敵前ではあってはならない仲間同士の醜悪な心理的な争い。閉鎖的な空間だからこそ人間の本性が露になり、精神力が試される事となる。 日常とは掛け離れた異常な事態である戦争。その恐ろしさを精神面からアプローチして生々しく本作は伝えている。さらには刻一刻と変化する緊迫した戦況の事細かな描写が迫力ある躍動感を生み出している。こうした面がしっかりしているのでチープなメロドラマにはならずに確かな見応えを感じさせるのである。 主人公ロベルトを演じるのはヘミングウェイと親交があり、またヘミングウェイがキャステングを希望したというゲーリー・クーパー。彼はスターならではの堂々たる風格で動じずブレない正義感溢れるヒロイックなロベルトを存在感たっぷりに演じている。 ヒロインのイングリッド・バーグマンの美しさも本作の大きな見どころであり、心を奪われるのは必至。暗く薄汚れた状況で見せる彼女の輝きは、まさに荒野に咲く一輪の花のようである。 但し、この歴史的な大スター二人で終わらないのが本作の優れたところ。クセ者揃いの傍役たちをカティナ・パクシノウやエイキム・タミロフ等が実に見事に演じ、作品を守り立てる。彼らの名演があるからこそ、本作が豊かに潤っていると言えるだろう。 カティナ・パクシノウは本作の演技で第16回アカデミー賞助演女優賞を受賞している。 |
>>HOME >>閉じる |
|||||||||||
★前田有一の超映画批評★ おすすめ映画情報-シネマメモ |
||||||||||||