自分勝手な映画批評
タイヨウのうた タイヨウのうた
2006 日本 119分
監督/小泉徳宏
出演/YUI 塚本高史 岸谷五朗 麻木久仁子 通山愛里
夜が白み始める頃、自室の窓から外を眺める薫(YUI)。目線の先には高校生の男の子(塚本高史)の姿があった。

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太陽の光に当たる事が出来ない難病を煩う少女を描いた作品。

不謹慎な物言いになるのかも知れないが、太陽の光を避けざるを得ない、夜しか行動出来ない少女の物語は、時間の制約があるという意味で、シンデレラのストーリーのようである。また、病気が故に世間知らずの少女が街に繰り出す姿は、ローマの休日のアン王女のようでもある。

だが、決してロマンティックではない。少女は難病を抱えているのである。しかし、不思議と悲愴感を強く感じる訳ではない。この辺りが本作の秀でた点ではないかと思う。

生死に関わる難病に侵されながらも、気丈に今を生きる少女。そんな少女と共に生きる周りの人々。病気の少女に対する心配や同情といった感情が、周りの人間にない訳ではないだろう。だが、それ以上に少女と共に生きる喜びを感じているように思う。

父は「病気じゃなくて個性だ」と言って娘を励ます。一歩間違えれば無責任な言葉なのかも知れない。いや、無責任な意味も含まれているのだろう。しかし、決して出任せではないだろう。簡単ではないし、きれい事を言って済まされる問題でもない。だが、残酷な運命を嘆くより、今、生きている事を大切にして欲しいし、大切にしたい。そんな想いが父の言葉から伝わってくるようである。

主人公の少女・薫をシンガーソングライターのYUIが演じる。正直に言って、彼女の演技には未熟さを感じる。ただ、彼女のつたなく感じる演技は、本作に良い作用をもたらしているのだと思う。

彼女の素材を活かすような変に技巧に走らない演技は、内向的ではなく、外へと向かうパワーを感じさせ、重い病気でありながらも前向きさを忘れない薫というキャラクターを上手く、しかも愛らしく表現しているように思う。本作が暗く塞ぎ込むだけの作品にならなかったのは、彼女の演技に因るところも大きいのではないかと思う。

そして何より彼女には歌がある。繊細だが力強い歌声は深く心に染み入る。彼女のナチュラルな演技が生きてくるのは、この歌の力があるからこそではないかと思う。

面白く感じたのは、薫役のYUIと両親役である岸谷五朗、麻木久仁子の配役を通じた関係だ。YUIは、それとなく母親役の麻木久仁子に似ている。しかし、薫の少し蛮カラにも思える性格は岸谷五朗演じる父親に似ているようである。

血の繋がりは甘くない。それは、遺伝子レベルの問題だ。立ちはだかる問題はあるのだろうが、多くの映画やドラマは、この点を蔑ろにしているように思う。その点に関して、本作のキャスティングが必然なのか偶然なのかは分からないが、適切な家族構成になっていると感じる。そういった観点で見ると、もし元気であった場合の薫の将来像が想像出来、作品に一層の深みが出てくるように思う。

薫の相手役である孝治を演じる塚本高史の演技も本作の見どころである。彼の高めの声を含めた風貌は、どこか街のあんちゃん風なのだが、その事が却って優しく純真な心を持つ青年像を現実的、且つ、魅力的にしているように思う。ひょうひょうとした振舞いの中に見える誠実な人柄。彼の演技は、若者を描く上であまり感じる事が出来ない内面の奥行きを見事に表現している。

家族、恋人、さらに通山愛里演じる薫の親友の美咲を加えたチームワークが良い。暗くなりがちな重いテーマを、吹き飛ばすまでには行かないものの、微笑ましく前向きなドラマとして成立させている。

テレビドラマ版は沢尻エリカと山田孝之が主演。


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