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これで死者は安らぎを? イギリス情報部MI6の諜報員ジェームズ・ボンドの活躍を描いたスパイアクション作品。 映画007シリーズの第22作目であり、シリーズ初の試みである続編。本作は前作「カジノ・ロワイヤル」の終了直後に物語がスタートする。 本作からボンドのスーツのデザインをトム・フォードが担当している。フォードと言えば老舗ファッションブランド、グッチを復興させて一躍名を馳せた人物。フォードは映画007シリーズの復興にも一役買っており、ボンドをスタイリングしてファッション・アイコンに仕立て、新たなファン層の獲得を実現させている。 ホワイトを拉致したボンドは何とか追っ手を振り切って、イタリアのシエナにいるMの元へホワイトを連行した。そこでボンドはヴェスパーが救おうとした彼氏のIDを持った男の死体がイビザ海岸に漂着したのだが、DNA検査をした結果、死体の男はヴェスパーの彼氏ではなかったとの報告をMから受けた。「あなたは信用できる? 愛した女が死んで復讐を考えていない?」とボンドに尋ねるM。ボンドは「ご心配なく。今更どうでもいい男です。彼女もね」と答えるのだった。ホワイトへの尋問が始まり、「誰に雇われた?」と問うと、ホワイトは「何も分っていないんだな」「我々の存在も知らない」と笑いながら答え、「我々の仲間は、あらゆる場所に出向いている」と言った後、Mの護衛のミッチェルに向かって「そうだろう?」と言った。するとミッチェルは、いきなり発砲した。 本作にはシリーズの決め台詞である「ボンド、ジェームズ・ボンド」と自らの名を名乗るシーンが存在しない。しかし、その台詞は前作のラストに存在する。私なりの見解だが、この台詞が2つの作品を繋げ合わせる役割を果たし、2作で1つの物語という事を印象づけているように思う。 ただ、1つの物語を2つに分けたと言うよりも、2つの物語を1つに繋げたような印象を私は持った。だからと言って、もちろん1本筋は通っているので、無理矢理くっつけたという訳ではなく、両作とも、それぞれに見応えもボリュームもあるという意味だと理解して欲しい。 続編なので、前作での設定をそのまま持ち込めるのは良い点であろう。特に登場人物のキャラクターに広がりを感じられるのは面白い。 だが、そんな中、割を食ったのがボンドガールのオルガ・キュリレンコだ。2作続けて、しかも前後作で同じタイプのヒロインは使えないだろう。その上、前作のエヴァ・グリーンがボンドガールの良いところを随分と使い果たしてしまったような気がする。 残念ながら、小麦色の肌が印象的な本作のキュリレンコに、ほぼセックスアピールは無い。しかし、そんな悪条件でもキュリレンコは立派に演じている。似たような目的を持つ、同志とも言えるキュリレンコ演じるカミーユの存在が、ある意味ボンドを勇気づけ、ある意味ボンドを冷静にさせたのではないかと思う。 そんなボンドガールとの関係を通じて、ボンドの鉄仮面ようなポーカーフェイスの裏側に見え隠れする人間味を感じ取る事が出来る。それは前作では愛情だったが、本作では友情。ひとつひとつ明らかになる、あるいは成長して行くボンドを体感出来るのは、シリーズをリブートした醍醐味であるだろう。 前作にアクションがなかった訳ではないのだが、本作は特にアクションを重視しているように感じる。のっけから、壮絶なカーチェイス。接写を多用し、カット割りが異様に多いアクションシーンは、まるでカメラが追いつけないと錯覚するようなスピード感と慌ただしさを感じさせ、大迫力と臨場感を同時にもたらす。 そして、そのアクションシーンにニュー・ボンドのダニエル・クレイグが生きてくる。クレイグには今までのボンドにはない、ストイックなアスリートのような雰囲気がある。そういったキャラクターには現代風味の素早くて激しい、高度なアクションが良く似合う。更には、演出・映像処理の妙も相まって、今まで以上の迫力をもたらしている。 また、本作前半で彼がオートバイに乗るシーンがあるのだが、服装の色合いが似ている事も影響しているのかも知れないが、その姿は「大脱走」のスティーブ・マックイーンを思い出させた。それだけで判断するのは強引ではあるのだが、元々、髪の色等、従来のボンドの設定とは違う面を持つクレイグではあったが、改めて、今までのボンド像とは異なるイメージを実感した。 アクションシーンに限らず、その他の演出も非常にセンス良くまとめられている。前作でもスタイリッシュなイメージは感じたのだが、本作は更に突き詰めている。また、どことなく「ゴッドファーザー」を思わせる、明と暗のコントラストを用いた描写は美しくも寂し気な情緒を感じさせる。と同時に、そのクオリティーの高さは荘厳さとスケールの大きさも漂わせる。 そういった点を総合すると本作は、前作で提示した新しい007の世界を、あらゆる面で、更にもう一歩発展させた描き方をしているように感じた。前作で見応えを感じた心理の応酬は薄まってしまったが、アクション、演出、映像等の見せ方に関しては前作よりも熟成させたセンスと工夫が感じられ、結果も得られていると思う。 前作以上に単独で突っ走る為、前作以上に厄介者、もっと言えば厄病神にさえなったボンド。若さ故なのか、それともニュー・ボンドのキャラクターなのか、クールな表情を崩さないまま、信念を貫き通し突き進んで行く。 |
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★前田有一の超映画批評★ |
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