自分勝手な映画批評
スパルタンX スパルタンX
1984 香港 98分
監督/サモ・ハン・キンポー
出演/ジャッキー・チェン ユン・ピョウ サモ・ハン・キンポー
スペインのバルセロナで同居している、いとこ同士のトーマス(ジャッキー・チェン)とデビッド(ユン・ピョウ)は、朝のトレーニングを終え、仕事に向かおうとするのだが、隣室夫婦の喧嘩の為に外に出られない。

情熱の国の美女を守る、香港ズッコケ三銃士

スペインを舞台に、訳あり美女の為に奮闘する、3人の男の物語。

プロジェクトAの続編ではないのだが、少なからず対(つい)の関係のように思える作品だ。ジャッキー、ユン・ピョウ、サモ・ハン・キンポー共演で繰り広げられる、コメディータッチのアクション作品という共通点、加えて両作が、さほど間を空けず製作・公開された事が、そう感じさせるのかも知れない。ちなみに余談であり、関連性は皆無だが、両作のタイトルを組み合わせると、NHKの番組になってしまう。

本作の大きな特徴は、全編スペインが舞台である点だ。しかしながら、台詞がすべて広東語であるのは、現在では許されないであろうが、ご愛嬌として大目に見たい。

何故、本作の舞台がスペインなのか、私には分からない。単に見た目の変化、あるいはロケーションの美しさを求めただけなのかも知れない。しかし本作には、異国で生活する中国人の心情が、さりげなく描かれている。例え、安易な考えでの舞台設定であったとしても、そういった描写を用いている事は、作品に違う一面をもたらす良い作用を与えているように思う。

意外にもジャッキーにとって、主演作としては初めての現代劇になる作品だと思う。その事は、ジャッキーが今までカンフーを活かせる時代の作品、すなわちカンフー俳優として活躍してきた事を意味している。本作でも、カンフーを習得している役柄ではあるのだが、それでも、新たなステップに進んだと言えるのではないかと思う。

プロジェクトAと比べて3人の中で、一番印象が異なるのがユン・ピョウだ。当時、柴田恭兵に似ているなんて話題になったニヒルな二枚目だが、本作では、そのイメージをかなぐり捨て、少し頼りなさげな好青年を好演している。彼の演技がなかったら本作の面白味は半減していたであろう。

本作の監督でもあるサモ・ハン・キンポーの芸達者ぶりは、本作でも遺憾なく発揮され、存分に楽しませてくれる。彼の代表作「燃えよデブゴン」はブルース・リーのパロディー的要素も持つが、そんな観点で見ると、意識した訳ではないだろうが、モジャモジャ頭の探偵役は「探偵物語」の工藤俊作のように見えてしまい、これまた滑稽である。

本作のハイライトは、ジャッキーとマーシャルアーツチャンピオンのベニー・ユキーデとの対決シーンだ。現在で言うところのK1チャンピオンとの対決というようなシーンであり、カンフーのトップスターと実在のチャンピオンの対決は、いくらフィクションとはいえども、大変興味深いマッチメイクであった。

実際の挌闘家との対決はドラゴンへの道でのブルース・リーとチャック・ノリスの対決シーンを彷彿とさせ、もしかしたら念頭にあったのかも知れないと考えられる。ドラゴンへの道も名シーンだったが、本作も負けてはいない。

寸分狂わぬ適格な動作を見せるユキーデに対し、無駄もムラも感じさせるジャッキー。所詮、本職のファイターとアクション俳優の違いと言ってしまえば、それまでなのだが、意図しているのであれば実に巧みで、どれだけユキーデが強いかが容易く理解出来る。当事者目線の臨場感をもたらす演出・カメラワークも抜群であり、奇跡のドリームマッチは手に汗握る興奮と迫力をリアルにもたらしている。

その対決シーンを含めたクライマックスシーンが秀逸である。雰囲気抜群な古城を舞台に、スリルとアクションをスピード感たっぷりに魅せ、しかも笑いも忘れない。あらゆる要素が高次元で絶妙に詰め込まれた、素晴らしいクライマックスシーンである。

その他、「西部警察」チックな改造車でのカーチェイスやスケートボードを使ったアクション等々、楽しさ満載、プロジェクトAに負けず劣らず、見どころ盛り沢山の作品だ。


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