|
||||||||||||
若きジャッキーが極めた頂点 20世紀初頭の香港を舞台に、海賊退治に挑む警察官の奮闘を、内部事情をからめ、コメディー要素たっぷりに描いたアクション作品。ジャッキー・チェンの映画主演10周年記念作品であり、ジャッキーが主演の他、監督・脚本・武術指導(アクション指導)も兼ねている。 ジャッキー・チェンは、ある世代の人達、特に男性にとって、絶大な存在なのではないかと思う。彼への想いは映画スターに対してと言うよりも、スポーツ選手に抱くのと近いような憧れなのかも知れない。もちろん、彼のアクションがそうさせるのである。 今では耳にしなくなったが、一昔前にはカンフー映画と呼ばれるジャンルがあった。本作も当時は、おそらくカンフー映画と位置付けられていたであろう。しかし、香港流とでも言うべきであろうか、当時としては異質で、別次元の高度な挌闘アクションが、もはや当たり前となった現代の作品の風潮から考えると、カンフー映画的な要素を残してはいるものの、本作は、れっきとしたアクション作品だと言えるだろう。 さらに付け加えると、本作が当時、カンフー映画と称されたのは、ジャッキー主演の作品であったからであろう。実際、ジャッキーは、ずっとカンフー映画に出演し、そこで地位を得たのは間違いない。そして、そのジャンルの偉大なる先駆者がブルース・リーであるのは言うまでもない。 ただ、ブルース・リーが映画で演じる役柄そのままの、カンフーマスターの武術家俳優であったのに対し、ジャッキーは、そこまで卓越したエキスパートな俳優ではなく、むしろ、もっと広義にアクション俳優と言った方が適していたのではないかと思う。 本作は、ブルース・リーとは違う独自の道を切り開いていたものの、カンフー俳優として歩んで来た彼が、満を辞してカンフーのフィールドを飛び出して挑んだ、アクション俳優としての一歩を踏み出した作品であり、また逆に、今までのキャリアで培った、あらゆる要素が結実した、ある意味、集大成のような作品だと言えるのではないかと思う。 とにかく本作は盛り沢山だ。特に中盤までは、まるでショートコントやショートドラマのように、おおよそ全てのシーン毎に盛り上がり・見せ所がある。下手すれば、ワンシーンに何回も盛り上がり・見せ所があり、シーン毎ではなくカット毎にあるのではないかと思ってしまうくらいだ。さすがに、物語が佳境を迎えると、そのペースは鈍ってくるのだが、それでも、不意に楽しませてくれる。そのサービス精神こそ、本作、ひいてはジャッキー映画の真骨頂であり醍醐味であろう。 そのサービス精神が発揮され、伝わってくるのも、体が動き、動作で魅せられるからであろう。さらにはアイデアのセンスと豊富さであろう。超人的なアクションは、とても実写とは思えずマンガチックであり、それゆえユーモラスである。また、アイデアと動作で楽しませる手法は、往年のサイレント映画を彷彿とさせる。実際、時計台のシーンは、往年のサイレント映画へのオマージュらしい(深読みであろうが、クライマックスシーンの舞台となる海賊のアジトである孤島は燃えよドラゴンへのオマージュのようにも思える)。 但し、もちろん当たり前だが、本作はサイレントではない。ただ、台詞のやりとりのテンポの良さは、サイレント映画に通ずるセンスのように感じる。また、その実に良く練られた台詞のやりとりの内容は、どこか、日本の漫才やコントに通じるような面白さであり、日本人にとって馴染みやすく、楽しめるのではないかと思う。 それら満載の魅力を一層高めたのは、20世紀初頭に舞台を設定した点が挙げられるのではないかと思う。繰り広げられるコミカルな活劇と、セーラーカラーの制服や、サスペンダーにニッカポッカが違和感なく収まる洒落た舞台は、相性がバッチリで、ちょっとした夢空間、ファンタジーのようにも思える。クラシカルな音楽も実に効果的だ。 そして忘れてならないのは、ジャッキー・チェン、サモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウの共演であろう。中国戯劇学院で少年期を共に過ごした、この三者のジャッキー映画での共演は、まさに待望の揃い踏みであり、当時、どんなハリウッドスターの共演よりも豪華に見えた。実際、それぞれの特性を活かしたコンビネーションは素晴らしく、本作の軸として作品を牽引して行く。 本作のハイライトはジャッキーの25mの高さの時計台からの落下シーンであろう。彼のキャリアの中でも最大の見せ場と言っても過言ではないシーンではないかと思う。驚く事に、巻末のNGシーンも含め、最低3回は落下している事が確認出来る。 生身のスタントだからといって、手放しに賞賛するのは間違いであろう。観客を満足させるエンターテインメントとしての結果が、何より重要であるべきであろう。ただ、ジャッキーは、それらを同時に追い求め、実現して来た。この危険極まりないシーンに、彼の役者魂、と言うか、楽しませる事にまさに命を懸けたエンターテイナー魂が集約されている。 |
>>HOME >>閉じる |
|||||||||||
★前田有一の超映画批評★ おすすめ映画情報-シネマメモ |
||||||||||||