|
||||||||||||
Don’t Think, Feel 孤島で行われる武術大会の裏でうごめく麻薬製造密売の確証を突き止めるべく奮闘する武術家を描いた作品。 明朗快活なストーリーは、正直に言って随分と稚拙だ。その感覚は、変身こそしないが、子供向けのヒーローモノに似ているようにも思える。だが、その稚拙さを圧倒するのがブルース・リーの絶対的な存在感だ。 青年時代をアメリカで過ごしたブルース・リーにとって本作は、待ちに待ったアメリカ進出、変な言い方になるが、アメリカ凱旋作品と言えるような作品ではないかと思う。だが残念な事に、生前、彼が最後に出演した作品が本作になってしまった。 現在でもあるのかも知れないが、昔は、ある作品で人気が出た俳優の以前に出演した日本未公開作品を、蔵出しするかのように遡って公開させる事があった。日本では本作がブルース・リー初披露となる作品。本作の評判を元に、彼の以前の主演作は本作より後に次々と公開されていった。悲しいが、ブルース・リーが旋風を巻き起こしたのは、彼の死後である。 当時、ブルース・リーのアクションに衝撃を感じたのは、当時では珍しかった足技の素晴らしさだったらしい。もちろん、その妙技は本作で存分に味わえる。但し、技術的な優劣は別にして、見栄えの良い足技が重視される現代の挌闘アクションのスタンダードを考えると、足技の斬新さという衝撃は、本作ではもう味わえないだろう。 だが、それこそがブルース・リーの功績である。スタンダードになった背景には、そのルーツやオリジナルの素晴らしさが不可欠である。もはや特異性を感じさせないほど、あまりにも浸透し過ぎて忘れがちになりそうではあるが、現代の挌闘アクションのスタンダードを作り出したのはブルース・リーと言っても過言ではないのではないかと思う。 そんな中、現在でも色褪せずに衝撃をもたらし、心を動かされるものもある。それは、ブルース・リーの発する独特の気合いと憂いある表情だ。 「怪鳥音」と呼ばれる彼独特のカン高い発声の気合いは、まさに獣。この声を聞くだけで、人間が繰り成すドラマが、一瞬にして、文明も理性も及ばない、緊張感漂う野生の本能むきだしの戦場となる。さらには彼の表情が、より一層緊迫感を煽る。それは感情のコントロールを失った人間の狂気の沙汰に見えるのだが、同時に、愚かな行為を悲しむ、人間らしさの表れにも感じとれる。 アクションに関しては、鍛練を積めば習得出来るのかも知れない。しかし、彼の感情の表現は、容易く真似する事の出来ない独自の境地であると言えるだろう。 ブルース・リーがアクション作品に及ぼした影響は絶大だ。もし彼がいなければ、アクション作品の進化はなかった、あるいは進化のスピードは著しく遅くなっていたのかも知れない。その影響力を踏まえ、違った視点で考えるなら、もし彼が生きていたならば、アクション作品は彼主導で、また違う方向性を見い出していたのかも知れない。そんな勝手な想像が巡るほど、ブルース・リーは映画界にとって掛け替えのない俳優だったのではないかと思う。 志し半ばで夭折したブルース・リー。その志しを受け継がせようとした意図があった訳ではないだろうが、本作に端役として、後の香港映画界を背負って立つジャッキー・チェン、サモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウが出演しているのは因縁めいているようで興味深い。 有名なテーマ曲が、一層気持ちを高ぶらせる。「考えるな、感じるんだ!」。理屈など無用な興奮を、時を越え、ブルース・リーが現代に運ぶ。 |
>>HOME >>閉じる |
|||||||||||
★前田有一の超映画批評★ おすすめ映画情報-シネマメモ |
||||||||||||