自分勝手な映画批評
マルタの鷹 マルタの鷹
1941 アメリカ 101分
監督/ジョン・ヒューストン
出演/ハンフリー・ボガート メアリー・アスター ピーター・ローレ
サンフランシスコで探偵事務所を構えるスペード(ハンフリー・ボガート)の元に、フロイド・サースビーという男と駆け落ちした妹を捜しにニューヨークから来たワンダリー(メアリー・アスター)と名乗る女性が訪れた。

夢が詰まっているんだよ

原作はダシール・ハメットの小説。謎の秘宝マルタの鷹をめぐる攻防を描いた作品。

本作はハンフリー・ボガートの出世作となった作品らしい。決して美男子とは言えず、背も高くない彼ではあるが、その名声の根拠は本作を観れば自ずと理解出来るだろう。

ワンダリーと名乗る女からサースビーという男と一緒にいる妹を連れ戻してほしいとの依頼を受けた私立探偵のスペードは、その任務を相棒のマイルズに任せた。しかし、その晩、マイルズ、サースビーの両者共、射殺されてしまう。その状況から警察に犯行の疑いを掛けられたスペードは、独自に事件の真相を追う。

場面や登場人物等、設定は限られているのだが、かなり入り組んだストーリーであるのが本作の特徴ではないかと思う。そういった意味では少々分かりづらく感じる面もあるのかも知れない。ただ、それこそが本作の優れたところであり、渾沌とした状況が上質のミステリーを紡ぎ出し、さらには、やるせなさと爽快感が交じったクライマックスを導き出しているように思う。

ストーリーを入り組ませているのは、登場人物それぞれの思惑に基づいた人間関係が基盤になっているからである。淫らな者たちの欲と保身が生々しく嫌らしく這いずり回るストーリーは、節操を持たずに展開される。さらには、本来なら作品の柱としてどっしりと構えているべき主人公の立ち位置が不安定である事が一層ストーリーを混迷させていると言えるだろう。

立ち位置が不安定になる理由は、ハンフリー・ボガート演じる主人公スペードの探偵気質である。警察に協力する訳ではなく、目の前に立ちふさがる難関を自らの運命であるかのように自身の手で決着させようとするスペード。それはともすれば、一般的な正義の概念とは重なり合わないだろう。しかし、それが良いか悪いかは別にして、そこにはスペードの探偵としての、あるいは男としてのプライドが感じられる。

もちろん、それを真っ当させるには確固たる資質が備わっていなければならない。適格な洞察力と冷酷無情な判断力、タフな男の体力と信念。そして、それらをすべて包括した上に感じさせる大人の風格。カサブランカほどのキザな言葉は飛び交わないが、それでも粋な男の心意気は十分に伝わってくる。

ノアールに包まれたハードボイルド。若輩者では勤まらない渋い男の適任者は、やはりハンフリー・ボガートなのだろう。


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