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俺たちにはパリがある 第二次世界大戦下のフランス領モロッコのカサブランカを舞台にした、切なくも粋なラブストーリー。 まず本作で驚いたのは、戦時下における敵対する国民同士の互いの関係の描かれ方である。本作の舞台であるカサブランカは当時フランス領であったのだが、ナチス・ドイツのフランス侵攻によりドイツの影響下にあった。この複雑な時代背景が本作の根低にある。 主人公たちの立場からすれば、敵視すべき相手であるドイツ人とは相容れない間柄であり、顔を合わせれば即座にいざこざが起こりそうなものだが、必ずしもそうはなっていない。内心では怒れる感情を抱えつつも、表面上は大人な対応で平静を装っている。これはドイツ人も同じ。基本的には悪役として描かれているのだが、紳士的な態度を忘れてはいない。 もちろん、そこには戦時下の微妙で複雑な立場と人間心理が作用しているとも言えるのだが、すぐに感情に走らない振舞いに、大人なドラマとしての風格を感じさせる。そして、この下地が本作のメインである恋愛部分にも活かされているように思う。 ハンフリー・ボガート扮するリックはカサブランカで酒場を経営する男。彼は夢破れ、浮き世に拗ねた男である。戦時下の渾沌とした状況で、彼の私的な事情から成る揺るがぬ信条が幸いしてか、酒場は繁盛し、彼自身も一目置かれる立場を築いている。そんな彼の日常に、彼と過去を共有するイングリッド・バーグマン演じる女、イルザが突如として現れる。 本作はホロ苦くセンチメンタルで、実にロマンティックな上質のラブストーリーだ。そして同時に、男たる者どうあるべきか、というひとつのカタチを示している作品のようにも思う。 後世に語り継がれる名台詞のオンパレードも本作の特徴であろう。かつて沢田研二は「カサブランカ・ダンディ」(作詞:阿久悠)でハンフリー・ボガートに向かって、男がキザでいられる、あなたの時代がうらやましいと嘆いた。「君の瞳に乾杯」等々、本作には歯の浮くような台詞が随所に登場する。だが、不思議とハンフリー・ボガートの口から漏れると薄っぺらくは聞こえない。 そのような台詞がまかり通るのは、古き良き時代だからだと言ってしまえば、それまでなのだが、それだけでは片付けられない、その言葉を発する男の資格、男の生きざまの重みが本作には刻まれているように思う。キザを気取るには、その責任の所在となる器量がなくてはならない。それこそが沢田研二の嘆きの本音ではないかと思う。 本作は、およそ三日間の物語の描いた作品である。回想シーンはあるものの、僅か三日間の中に難しい時代の実情や切ない恋愛の深みが、実にバランス良く、しっかりと凝縮されているのは極めて優秀だと言えるだろう。 封印を解かれた「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」の甘く美しいメロディーが、本作のムードをより一層高める。 第16回アカデミー賞、作品賞、監督賞、脚色賞受賞作品。 |
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