自分勝手な映画批評
グラン・プリ グラン・プリ
1966 アメリカ 180分
監督/ジョン・フランケンハイマー
出演/ジェームズ・ガーナー イヴ・モンタン エヴァ・マリー・セイント
モナコのモンテカルロ市街地コースではF1グランプリレースが開催されていた。夫のスコット(ブライアン・ベッドフォード)はドライバーとしてレースに参加しているのだが、妻のパット(ジェシカ・ウォルター)はモンテカルロのコースを眼下に治めるホテルの一室にいた。

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原作はロバート・デイリーのノンフィクション「The Cruel Sport」。F1グランプリシリーズにまつわる人々の姿を描いた作品。

カーレースを題材にした作品にスティーブ・マックイーン主演の栄光のル・マンがあるが、栄光のル・マンと本作との決定的な違いはドラマ部分の有無である。ドラマ部分を極端に排除し、カーレースをストイックに描いた栄光のル・マンも素晴らしい。しかし、ドラマにも重きを置いた本作の方がエンターテインメント性は高いと言えるだろう。ドラマとレース、その両立が影響してか、本作は3時間にも及ぶ長編になっている。だが、それに見合った見応えは十分に感じられる。

BRMチームからF1グランプリにエントリーしているアメリカ人ドライバーのピート。ここ数年はグランプリでの勝利はなかったのだが、今年度の開幕戦モナコグランプリでは中々の好位置でレースを進めていた。だがマシントラブルが発生して徐々に順位を落としてしまう。レースでトップを走るのはチームメイトのスコット。スコットはピートのすぐ後ろまで追いつき、ピートを周回遅れにしようとしていた。本来ならレースのルールによりピートはスコットに道を譲り、追い越させなければならないのだが、ピートにその気はなく、スコットを抑え込んでいた。しかし、どうにもマシンが言う事を聞かず、観念したピートはスコットに道を譲ろうとする。その時、ピートのマシンの挙動がおかしくなる。すぐ後ろにいたスコットのマシンは、その影響を受け海に落ちてしまい、ピートもクラッシュしてしまった。

とにかく本作はレースシーンが素晴らしい。格式のある華やかなモナコグランプリで幕を開け、きちんとスパ・ウェザーを取り入れたベルギーグランプリ、炎に包まれたイギリスグランプリ、そして、そびえ立つバンクが強烈な超高速のイタリアグランプリへと続くF1グランプリシリーズ。これらのレースの模様だけでも観る価値はある。

まずレースの描写で感心したのが、レースという催しの賑やかさ、スケールの大きさが立派に再現されている事だ。レースシーンが、どのように撮影されたのかは私には分からない。おそらく実際のレースの模様も作中では使用されているのだろう。だが、明らかに本作の為に撮影されたレースシーンも確認出来る。そう考えると、あらゆる意味でかなり大規模な撮影だったのではないかと推測出来る。

レースの躍動感は、車債カメラを多用する事によってもたらされる。実際のカーレースの放送で馴染みのあるドライバーの目線の映像はもとより、更にはドライバーの表情、コクピット内の操作の様子、マシンの挙動を捉えた映像等も収められている。複数の局部映像を混成させる事により、レースの大迫力が臨場感を伴って映し出される。その様子は、変な言い方だが、実際のカーレースの放送以上に実に生々しい。

この生々しさは、今となってはレトロなレーススタイルも多分に影響しているように思う。現代のフォーミュラカーとは明らかに異なるウイングを用いない、いわゆる葉巻型のマシンが現役で躍動する姿は、現代の感覚では味わえないアナログならではの迫力をたたき出すし、また、現在よりも安全性が緩く長閑なレース運営は泥臭い人間味を感じさせ、生々しさを増幅させる。

そんな中でもヘルメットの形状が現代と異なるのは大きなポイントだ。現在、フォーミュラカーのレースでは、顔全体までも覆うフルフェイスタイプのヘルメットを着用が当然であるのだが、本作の製作当時では顔が出ているジェットタイプのヘルメットを着用しレースに臨んでいる。その為、懸命にマシンを操りレースを戦う表情がしっかりと映し出されるし、また、俳優が実際に運転している事も確認出来る。

ダイナミックなレースシーンは見応え十分。但し、ストーリーのメインとなるのは人間ドラマである。

それが男の本能だと言わんばかりに、取り憑かれたようにスリリングな世界の一握の勲章を掴みにかかる男たち。そんな男の心情を理解出来ない女。だが、それでも愛してしまう女。古典的な構図だと言えなくもないが、この関係性もこれ又実に生々しく、心を揺さぶられる。ただ、そう感じるのも優れたレースシーンが、しっかりと描かれているからだろう。

現代ほどではないのだが、それでも様々な国の人々が参加して構成されるF1グランプリ。それに習うかのようにキャステングも多国籍である。そんな中、三船敏郎がしっかりと存在感を示しているのは同じ日本人として嬉しく、そして頼もしく思う。

分割画面を幾何学模様のように操り、クレジットを見事なタイポグラフィへと昇華させてレース直前の喧騒をスタイリッシュに演出するソウル・バスのタイトルバックも秀逸。

第39回アカデミー賞、編集賞、 録音賞、音響編集賞受賞作品。


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