自分勝手な映画批評
栄光のル・マン 栄光のル・マン
1971 アメリカ 106分
監督/リー・H・カッツィン
出演/スティーブ・マックイーン エルガ・アンデルセン
ポルシェ911でル・マンの街をドライブするデレイニー(スティーブ・マックイーン)。彼は車を止めて降り、ガードレールを見つめた。

マックイーンらしさの究極

フランスのル・マンで開催される24時間耐久の自動車レースの模様を描いた作品。

リアリズムを重んじた俳優、スティーブ・マックイーン。それは、あくまでも私なりのマックイーンに対する解釈であるのだが、その解釈に基づいて言えば、本作は究極のマックイーン作品だと言えるのではないかと思う。但し、あまりにも究極過ぎて、映画としてのエンターテインメント性は著しく乏しく、観る者をかなり選ぶ作品ではないかと感じる。

本作は、ほぼ全編に渡ってレースシーンである。ストーリーらしいストーリーはなく、しかも台詞も極端に少ない。エンターテインメントの規格からは明らかに一線を画した作品であると言えるだろう。

そんな本作の見どころは、やはりレースシーンだ。その生命線と言えるレース自体のリアリティーだが、実際のル・マン24時間レースの映像を上手く挿入した事により、中々作り物では到達出来ないレースという催しの賑々しさを感じる事が出来る。その喧騒は、まるでドキュメンタリーのような感覚にさえ至る。そして肝心のレースシーンも、車債カメラを駆使して迫力と臨場感をたっぷりと伝達し、大変見応えがある映像となっている。

そんなレースシーンの中にもドラマがあり、演技がある。特に印象に残ったのは、クラッシュシーンだ。クラッシュシーンの迫力も然る事ながら、そこでのマックイーンの演技が素晴らしく、感心させられた。

他車のクラッシュを爆発する音と炎で感じるマックイーン。ステアリングを握りレース中の彼だが、そこへと目線を向ける。顔を向けるのではない。ほんの一瞬、目玉だけ動かすのである。猛スピードでマシンを疾走させているドライバーにとっては、それが目一杯であろう。

但し、神経を研ぎ澄ませてレースに集中している筈のレーサーとしては、他車のクラッシュに気を取られている場合ではないだろう。目が動いてしまったのは人間の本能なのかも知れない。だが、それが命取りとなる。この僅かなシーンにマックイーンならではのリアリティーを強く感じた。

レースの迫力は技術を駆使して再現出来るのかも知れないが、レースの一番の醍醐味である真剣勝負の高揚感については、映画で再現するのは中々困難であろう。しかし、その点も本作は上手いまとめ方をしている。本作のクライマックスも実にマックイーンらしいと言えるのではないかと思う。

本作は、あくまでもレースシーンがメインなのだが、レースの裏側で展開されるドラマ部分も存在する。レースシーンで台詞が少ないのは、もっともだと言えようが、ドラマ部分でも極めて台詞が少ない。ただ、それは本作に良い作用をもたらしているのではないかと思う。男には無駄口はいらないとでも言わんばかりにシェイプにシェイプを重ねたドラマ部分ではあるのだが、それはそれで優れたセンスを感じさせ、危険と隣り合わせな男の哀愁が滲み出ている。

スポーツは日々進歩する。ことさら機械を用いるモータースポーツでは、その歩みの速さは顕著であるだろう。そういった意味では、古さを感じさせる面も大いにあるのだが、今となってはクラシカルな味として重宝すべきではないかと思う。

また、レースシーンで繰り広げられるているのが、スポーツカーメーカーの雄であるポルシェとフェラーリの対決というのも嬉しい。ガルフカラーと真紅のマシンのせめぎ合いは自動車ファンにはたまらないのではないかと思う。


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