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変人は怒らせなければ面白い かつての情事の相手から依頼を受けた探偵の奮闘を描いた作品。前作「動く標的」に続く探偵ルー・ハーパーシリーズ第2弾。原作はロス・マクドナルドの小説「魔のプール」。 結婚、離婚を繰り返し、ゴシップ誌を賑わすハリウッドスターがいるが、ポール・ニューマンも離婚を経験している。しかし、再婚相手とは、おしどり夫婦と称される程の仲であって約50年間、亡くなるまで連れ添った。その最愛の妻が本作でアイリスを演じるジョアン・ウッドワードだ。ニューマンには監督をした作品が何作かあるのだが、ウッドワードを主演にした監督作「レーチェル レーチェル」と「まだらキンセンカにあらわれるガンマ線の影響」は、どちらも高い評価を得ている。 6年前に1週間ばかり関係を持った女性アイリスに呼び出されてニューオリンズに来たロサンゼルスの私立探偵ルー・ハーパー。ハーパーはアイリスから6年振りに連絡をもらって初めて知ったのだが、アイリスはジェームス・デベロー夫人、つまり人妻だった。その事をハーパーが話すとアイリスは「17年前から、ずっとそうよ」と答えるのだった。待ち合わせの店で久々の再会を懐かしむ2人だが、今回、アイリスがハーパーを呼び出した理由は関係を復活させる為ではなく、仕事の依頼。アイリスは帽子とサングラスで顔を隠し、その上、ずっと周囲を気にしていたのだが、1人の男が来店すると更に慌て出し、ハーパーにハーパーの為にモーテルを予約した事を伝え、アイリスの電話番号を記したメモを渡し、「明日、連絡をちょうだい」と言って、その場を逃げるようにして立ち去ってしまった。アイリスが予約したモーテルに到着したハーパーは、近くのポンチャートレイン湖で泳ぎを楽しんだ。モーテルに戻り、浴室で足の汚れを落としていると、誰かが部屋に入って来る気配を感じた。ベッドには見知らぬ少女が座っており、「鍵が開いていた」と言う。「まだ開いている。出ていけ」と応じたハーパー。すると少女は「ルー、冗談言わないで」と初対面なので知らない筈なのに、何故かハーパーのファーストネームを口にするのだった。 前述したとおり、本作は探偵ルー・ハーパーシリーズ第2弾なのだが、前作「動く標的」からは9年もの長いブランクがある。どういった理由で9年ものブランクがあったのか分からないのだが、長いブランクがあるにもかかわらず、本作を製作したという事はハーパーというキャラクターに思い入れがあったのだという考えに至る事も出来る。 そうであるのならば、9年の間に何作か製作しても良かったのではないかと思う。何せ、ハーパーのモデルである探偵リュー・アーチャーのシリーズ小説は20作品近くもあるのだから。但し、売れっ子ハリウッドスターのニューマンは9年間に数多くの作品に出演している。なので、仮に探偵ルー・ハーパーシリーズを何作か製作していたら、「明日に向って撃て!」や「スティング」、「タワーリング・インフェルノ」といった代表作が犠牲になっていたかも知れないので難しいところだ。 さて、9年の時を経て再登場したハーパー。あまり9年前とは変わっていないというのが私の印象だ。時代は1960年代から1970年代に移行している。その間に男性のファッションも大きく変化し、1970年代はシルエットにメリハリのある派手なスーツがトレンドになった。しかし、ハーパーのスーツはトラッド。ネクタイに関しては1960年代を懐かしむかのように細い。また、ジャケットの下のワイシャツは半袖を愛用するのがハーパー流だったが、これも9年前から変化がない。 だが、前作で印象深かった愛車のポルシェは本作には登場しない。ただ、本作では本拠地のロサンゼルスではなくルイジアナ州に出張して仕事をしており、車はレンタカーを使っている。なので、ロサンゼルスでは相変わらずオンボロのポルシェを乗り回しているのかも知れない。そんな風に思える程、ハーパーには変化が感じられない。 つまり、「動く標的」の中で「新しい型(の探偵だ)」と自らを評したハーパーが9年後には「古い型」になっているという事だ。このギャップにインパクトを与える為には空白期間を設けた方が効果的だ。そういった意味では、9年のブランクがあってよかったと言えるし、そうでなければ、ブランクを上手く利用したと言える。 だが、実際のところ「古い型」になってしまったというインパクトはない。何故なら、まったく悲壮感がないからだ。それを体現しているのがニューマン。確かに前作と比べると加齢は明らかだし、作中には「白髪が増えた」といったようなセリフもある。だが、決して、老いても枯れてもおらず、味が出て来た、渋さが加わったという感じであって、エネルギーは十分に満たしているように見える。 これらが示す事は何なのか。それはハーパーが、たっぷりと洒落っ気はあるのだが、根本的には質実剛健な探偵だという事だ。9年前には「新しい型」の探偵だったかも知れないが、それはハーパーが新しい時代に飛びついたのではなく、従来の方法とハーパーの方法が異なっていただけの事。そもそも「新しい型」にこだわる人間が古いオンボロ車に乗っている筈はないのだ。 きっと、ハーパーは流行に疎いだけではなく、地位や名誉、金には関心も薄く、実直に探偵家業と向き合ってきたのだろう。それは先輩のフィリップ・マーロウも同じだと言えるが、マーロウに比べるとカリスマ性の乏しいハーパーは、より職人気質な探偵のように映る。 そんなハーパーにニューマンがベストマッチングなのだ。ニューマンが後世まで語り継がれる大スターだという事に誰もが異論はない筈。しかし、マーロウを演じたハードボイルドの第一人者、ハンフリー・ボガートやアクターズ・スタジオの同窓だったジェームズ・ディーンやマーロン・ブランド、ライバルと目される事もあったスティーブ・マックイーンに比べると個性が強烈ではない。しかし、その事こそが職人探偵を演じるに相応しい気質だと言える。 また、探偵ルー・ハーパーシリーズは前作も本作も人間のダークな部分をこじ開けており、それ故に奥深いミステリーになっているのだが、ここでもニューマンのキャラクターが重宝している。ニューマンが個性を強く主張せずに登場人物の一員の範疇で留めているからこそ、散漫になる事なく、ミステリーを存分に楽しめるようにもなっているだ。 本作も前作同様、ストーリーも濃ければ顔触れも濃い。登場人物は基本的にクセのある大人達なのだが、そんな中で異次元の輝きを放つメラニー・グリフィスが印象に残る。 一般的に「動く標的」よりも評価の低い本作だが、決してレベルが落ちた作品ではない。なので、「動く標的」が面白いと感じた人には是非とも観て欲しいと思う。探偵ルー・ハーパーシリーズは本作以降に製作されてはおらず、全2作しかないので余す事なく、世界観を堪能してもらいたい。 |
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★前田有一の超映画批評★ |
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