自分勝手な映画批評
スティング スティング
1973 アメリカ 129分
監督/ジョージ・ロイ・ヒル
出演/ポール・ニューマン ロバート・レッドフォード ロバート・ショウ
1936年9月、イリノイ州ジョリエット。賭博場の上がりをシカゴへと届ける仕事を任されたモトーラは建物を出た途端、ひったくりの騒動に出会す。

やると決めたら半端なことはやりたくない

ギャングに仲間を殺された詐欺師の復讐劇を描いた作品。

裏社会の様子を描いた本作。そんな本作には真っ当な正義は何ひとつ描かれてはいない。しかし観賞後に感じるのは、この上ない爽快感。自分では味わえない体験を疑似体験出来るのがエンターテインメントの醍醐味のひとつであると言えるだろう。本作は、そんな醍醐味が素晴らしく詰まっている作品である。

ひったくりの芝居を打ち、すり替えという手口で騙して金を奪い取った三人組の詐欺師。ただ、その金は思った以上の大金だった。それもそのはず、詐欺師たちが奪った金は大物ギャング、ロネガンの組織の賭博場の売り上げ金だったのだ。そんな事などつゆ知らずの詐欺師たち。そんな中、リーダー格の老詐欺師ルーサーは今回のヤマを最後に引退する事を告白する。だが、パートナーで若い詐欺師のフッカーは、ルーサーの決意に納得出来ない。そんなフッカーにルーサーは、ルーサーの旧友でシカゴ在住の超一流の詐欺師ゴンドルフに会いに行き技術を仕込んでもらえと諭すのだった。一方、今回の件をロネガンの組織が黙って見過ごすはずなく、フッカーたちを始末しにかかる。ロネガンの金だと知ったフッカーはルーサーの身を案じるのだが、時すでに遅く、ルーサーは殺されてしまった。傷心のフッカーはゴンドルフを訪ね、ロネガンへの復讐の協力を求める。ゴンドルフはその願いを聞き入れ、復讐を実行するべく詐欺師のチームを編成するのだった。

惚れ惚れする程、良く出来た作品だ。何といっても些細なところに神経が行き届き、先の先まで見据えた高度に計算されたストーリー、展開力が秀逸である。

詐欺師たちが目論む復讐計画は用意周到、練りに練られている。しかもストーリー性を帯びているから面白い。詐欺師たちはターゲットを一気に落とし入れるのではなく、段階を踏んで徐々に追い詰めて行く。それが決して一本調子ではなくバリエーションが豊富なのも良い。時に手綱を緩めてターゲットの懐に入り込み、気を許させたところで、その反動をつかって次の段階へと追い込んだりするのである。

実に優秀な復讐計画だ。しかし、あくまでも計画は計画であり、相手がいる事なので万事が上手く行く訳ではない。時として予定に反した結果を迎える場合もある。そういった状況でどのように対応するのか? その辺りが本作の見どころのひとつになるだろう。

本作の大きな特徴は、この復讐劇と本編のストーリーとが一体化している点である。本作のストーリーは、ほぼ詐欺師たちが計画し実行するストーリー性のある復讐劇そのもの。すなわち本作は、本作の作り手が描いたストーリーを作中で詐欺師たちが復讐劇として代行するカタチになっていると言えるだろう。

そして、この一体化はストーリーのみならず、本作を作り出したストーリーテラーと作中で復讐劇を作り出した詐欺師たちとの一体化でもあるだ。それこそが本作の肝であり落とし穴である。逆説的に言えば、騙す事が生業の詐欺師の精神に基づいてストーリーテラーは本作を展開させている。つまりストーリーテラーは、詐欺師たちがターゲットを術中にはめるように、観る者を手のひらの上で踊らせて手玉に取っているのである。

こういった様相はミステリーの領域だと言えるのかも知れない。だが本作は推理を求めているのではない。その気配さえも感じないだろう。なので、素晴らしいストーリー展開に身を委ねて作品世界を思う存分堪能するだろう。だからこそ仕組まれたトラップに大きな衝撃を覚える。そして、その「してやられた」感は大きな快感になる事だろう。

珠玉のストーリーだが、それだけでは本作は成立しない。本作でのミッションは熟練の詐欺師たち、すなわち熟練した俳優でなければ遂行出来ないのだ。登場人物が比較的多い本作であるが、どの俳優も味のある演技で役柄に没頭し作品を重厚に彩る。中でも伝説的詐欺師を貫禄たっぷりに演じるポール・ニューマンの懐の深さは強く印象に残る。

テーマ曲は、もしかすると本作自体よりも有名かも知れない「ジ・エンターテイナー」。本作用に書かれた楽曲ではないようだが、軽快な曲調といい、楽曲タイトルといい、まさに本作にピッタリである。

そんなテーマ曲が象徴するように、本作は粋で洒落たエンターテインメントである。但し、その土台には確固たるインテリジェンスが敷き詰められている。あらゆる要素が高水準で備わっている本作。迷う事なく傑作であると声を大にして誉め讃えたい作品である。

第46回アカデミー賞、作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、美術賞、衣装デザイン賞、音楽賞受賞作品。


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