自分勝手な映画批評
黄昏のチャイナタウン 黄昏のチャイナタウン
1990 アメリカ 138分
監督/ジャック・ニコルソン
出演/ジャック・ニコルソン ハーヴェイ・カイテル メグ・ティリー
ジェイク(ジャック・ニコルソン)の探偵事務所で妻の浮気の証拠資料のテープに録音をする夫で依頼主のバーマン(ハーヴェイ・カイテル)。その時、地震が起きた。

「逃げられんぞ」「逃げたりしないよ」

私立探偵が殺人事件の真相を追うミステリー。1974年公開のチャイナタウンの続編。

傑作ハードボイルドミステリーの前作から16年もの長いブランクを経ての続編。何故、これだけのブランクを必要としたのか、あるいは、何故、これだけのブランクがあるにも関わらず続編が製作されたのか、事情は分からない。ただ、前作のファンには嬉しい続編製作であるだろうし、また、ベースとなるキャストが、これだけのブランクがあるにも関わらず集結しているのも喜ばしい事ではないかと思う。本作の監督がジャック・ニコルソンであるのも大きなトピックであるだろう。

私立探偵のジェイクは自分と名前が同じジェイク・バーマンの依頼でバーマンの妻キティの浮気調査をしていた。事実を突き止め、情事が行われているモーテルの部屋を隣の部屋から盗聴し、証拠としてテープに録音していたジェイク。すると情事が行われている部屋にバーマンが現れ、キティの浮気相手を射殺してしまった。ジェイクは当初、単純にバーマンが浮気を許せずに相手を射殺したのだと考えていたのだが、実はキティの浮気相手、つまり射殺されたのはバーマンの経営する会社、BB建設の共同経営者であり、もちろんバーマンの顔なじみであるボディーンであった。その事を事前にバーマンから聞かされていなかったジェイク。事件には裏がありそうなのだが、浮気調査を請け負った関係でバーマン側に付かなければならない立場であった。事務所に戻り録音テープを聞き返すジェイク。すると射殺されたボディーンの口から10年前の忌わしい事件の関係者、キャサリン・モウレーの名前が発せられていた。

実際の製作には16年の月日の経過があるのだが、物語としては前作より10年後を描いている。その間には第二次世界大戦があり、その他でも様々な事で変化が生じているようである。本作は空白の10年間の出来事を直接的に描くような野暮な事はしていない。だが月日の経過による変化は、しっかりと残った染みで匂わせている。そして何より、前作よりも随分と貫禄がついたニコルソンの風貌から月日の経過を察しても良いのではないかと思う。

前作に引き続き本作でもミステリーの深さは健在である。「君は何も分かってないんだよ」。これは作中でニコルソン演じるジェイクが言われる台詞である。似たような台詞は前作にもあった。これらの台詞はジェイクに対してだけではなく、観る者にも向けられているような気がする。多分に複雑であり、注視していても振り落とされそうなミステリーだが、これこそが本シリーズの醍醐味であるだろう。

「人の携帯を見たって良い事なんて何ひとつない」なんて意見を聞いた事があるが、確かにそういうものなのかも知れない。もちろん暴かなければいけない秘密はある。秘密を暴く事で不正が是正される事は大いにある。だが、暴いたところで幸せには結び付かない秘密もあるだろう。無理難題に挑む探偵とは過酷な商売なのだろう。ただ、最も過酷なのは辿り着いた結果なのかも知れない。

私にとっては本作が初めて観るニコルソン監督作品であった。こういう言い方は失礼なのだが、ニコルソンのキャラクターを考えると大味な演出なのかと思っていたのだが、実に繊細でセンスを感じさせる演出であった。ニコルソンのクリエイターとしての資質を大いに実感出来る作品である。

中々クセのある俳優を揃えたキャスティングが良い。メグ・ティリーの美しさも必見。


>>HOME
>>閉じる



★前田有一の超映画批評★

おすすめ映画情報-シネマメモ