自分勝手な映画批評
チャイナタウン チャイナタウン
1974 アメリカ 131分
監督/ロマン・ポランスキー
出演/ジャック・ニコルソン フェイ・ダナウェイ ジョン・ヒューストン
ジェイク(ジャック・ニコルソン)の探偵事務所では、依頼人のカーリー(バート・ヤング)が妻の浮気の証拠写真を見せられて荒れ狂っていた。何とかカーリーの気を落ち着かせて引き上げさせたジェイク。ジェイクには次の依頼人、モーレイ夫人が控えていた。

傷つけたくない人がいた、だが結局、彼女は傷ついた

不可解な男性死亡事件の真相を追う私立探偵の姿を描いた作品。

本作で要となる役、ノア・クロスを演じているジョン・ヒューストンはアカデミー監督賞を受賞した事のある映画監督。名監督が演者として出演している事自体が面白いのだが、彼が監督したマルタの鷹のようなハードボイルドでフィルム・ノワールな作風の本作に出演している事は殊更興味深く感じる。

舞台は1930年代のロサンゼルス。探偵事務所を開くジェイクの元にモーレイ夫人と名乗る女性から夫の浮気調査の依頼が入る。夫のホリス・モーレイは市の水道局長でダム建設騒動の渦中の人物。ジェイクはホリス・モーレイの身辺に若い女性の存在があるのを突き止め、一緒に居る現場の写真を撮る事に成功した。ただ、モーレイ夫人に報告を上げるや否や、何故かその内容が写真付きの記事として新聞に大きく掲載されてしまう。そんな折、女性がジェイクの事務所に訪れる。その女性こそが本物のモーレイ夫人であり、調査を依頼したのはニセ者だった。この件で訴訟を起こすというモーレイ夫人。慌てたジェイクは新たに調査を開始するのだが、ホリス・モーレイの死体が発見されてしまう。

ミステリーなフィルム・ノワールでハードボイルドという黄金のトライアングルが見事なまでに実現されている作品である。無論、探偵の仕事がミステリーであり、仕事場は非道な犯罪社会、よって探偵の気質はハードボイルドへと傾くので、この3要素が顔を合わせる事自体は当然の成り行きではあるのだが、それらが高水準で収められ重厚に映し出されているのが本作の優秀なところである。

とにかくミステリーが素晴らしい。多分に複雑であり、一緒になって謎を解くのはいささか困難ではあるのだが、隙間を嫌がるように詰め込まれたミステリーは作者の知性と心意気を強く感じさせる。そして、そこから導き出された世界は断然不条理である。本作から爽快感を得るのは難しいであろう。ただ、その引き換えに感じる苦味こそが本作の魅力なのである。

ハードボイルドを演じるのはジャック・ニコルソン。時代が時代ならハンフリー・ボガートの役回りであっただろう。ニコルソンはボガートをなぞるような真似はしない。なので粋なダンディズムとは程遠く、ともすればイヤらしいキャラクターにさえ映る。ただ、それこそがニコルソンたる所以であろう。

ニコルソンが演じるジェイクは感心するほど洞察力の優れた探偵役である。これは、そもそものキャラクター上の設定ではあるのだが、それを天賦の才能としてではなく、タタキ上げの職人気質のようなリアリティーで魅せたところはニコルソンの手腕である。

前述したジョン・ヒューストンも素晴らしく、緩急をつけた深みある演技を披露する。本作以外でも役者として活躍していたようだが、それでも本職ではないヒューストンに、本作のクオリティーを左右する重要な役割を果たすまでの技量が備わっているのには脱帽である。

第47回アカデミー賞、脚本賞(ロバート・タウン)受賞作品。


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