自分勝手な映画批評
トーマス・クラウン・アフェアー トーマス・クラウン・アフェアー
1999 アメリカ 114分
監督/ジョン・マクティアナン
出演/ピアース・ブロスナン レネ・ルッソ デニス・リアリー
精神分析医(フェイ・ダナウェイ)との面談の場でトーマス・クラウン(ピアース・ブロスナン)は女性観、社会観についての質問に答えていた。

それでもいい、僕は君を信じる

有名絵画を盗み出した大富豪の男と、その絵画の損害保険を担当している保険会社からの依頼で事件を追う賞金稼ぎの女との攻防を描いた作品。1968年公開のスティーブ・マックイーン主演、華麗なる賭けのリメイク。

本作はオリジナルを忠実に再現したリメイクではないのだが、基本線は守られていると言えるだろう。面白く思ったのは、オリジナルも本作も原題は同じなのだが、オリジナルには邦題が付き、本作は原題そのままに日本で公開されている事だ。何故、タイトルに違いが生じたのか? その理由に少しばかりの興味をそそられる。私としては内容を鑑みれば、原題そのままの本作のタイトルの方が適しているように感じる。

ニューヨークのメトロポリタン美術館に強盗団が絵画を盗み出そうと侵入する。彼らの計画は周到に練られたものであったが、ベテランの主任職員に気付かれ未遂に終わる。しかし、その騒ぎに便乗しトーマス・クラウンは展示されていたモネの絵画を盗み出す。

ニューヨークに自社ビルを構える投資会社の社長で富豪のトーマス・クラウン。このキャラクターのイメージはオリジナルのスティーブ・マックイーンよりも本作で演じたピアース・ブロスナンの方が相応しいのではないかと思う。

ブロスナンと言えばジェームズ・ボンド。しかも本作製作当時には現役でジェームズ・ボンドを演じていた。国に仕えるジェームズ・ボンドと法を犯すトーマス・クラウンとでは根本的に立場が違うのだが、それ以外の面、ジェントルマンな佇まいから醸し出す気品や優雅さ、豊富なインテリジェンスとユーモアのセンスを兼ね備えているところは酷似していると言えるだろう。

そんなトーマス・クラウンが繰り広げる物語は実にスマートな風合いに仕上がっている。何もかも手に入れてしまった男が求めた次なる快楽は、趣味である絵画のコレクションに新たに加える作品を非合法で手に入れる事。厳重警備の超有名美術館から盗み出すのは容易ではないが、手口は決して強引ではなく、しかも無血のまま怪盗とでも呼びたい程に鮮やかに完遂される。

但し本作は、その犯行の手口の描写に重きを置いた作品ではない。作品冒頭で盗みという難題は完了してしまう。その後の物語の焦点は、いかにして犯行をバレずにやり過ごすか、逆の立場で言えば、いかにしてトーマス・クラウンの犯行を立証するかに移行する。さらには追う者、追われる者といった立場が相反する者同士の不思議な恋愛模様へと発展し、物語は複雑かつ豊潤なラブストーリーに変貌する。

しかし本作は、そこで終わらない。最後まで怪盗作品らしいミステリーとスリルの灯火は絶やさない。この展開と演出は秀逸であり、それこそが本作の価値なのだと思う。

本作の根低には洒落っ気たっぷりの遊び心がある。それはトーマス・クラウンのキャラクターの資質と同調している。

トーマス・クラウンの犯行動機は、不謹慎であるのだが、何とも贅沢な遊び心。それが、そのまま本作が掲げたモットーであるかのごとく作品自体に同化し、本作の随所で感じられる。エレガンスとインテリジェンスを重宝している点もトーマス・クラウンのキャラクターと同一だと言えるだろう。だからこそクライマックスに訪れる格別な爽快感が生み出されるのである。

遊び心はキャスティングにも表れている。オリジナルでヒロインを演じるフェイ・ダナウェイは本作にも登場する。決して重要な役ではない。もちろんオリジナルと同じ役でもない。しかし設定こそ違えどオリジナルの名シーンを彷彿とさせるレイアウトで彼女が登場すると、否が応でもニヤリとさせられてしまう。


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