自分勝手な映画批評
あぶない刑事 あぶない刑事
1987 日本 99分
監督/長谷部安春
出演/舘ひろし 柴田恭兵 浅野温子 仲村トオル 木の実ナナ 中条静夫
金曜日の夜、横浜の繁華街を覆面パトカーでパトロールをする鷹山刑事(舘ひろし)と大下刑事(柴田恭兵)。すると前方に若くて綺麗な女性の二人組が歩いていた。パトロールそっちのけでクラクションを鳴らして二人を振り向かせ、声をかけて車に乗せようとする鷹山と大下。そこに事件発生、応援要請の無線が入る。

仕事なんかするもんじゃねーよな、金曜の夜に

横浜を舞台に、港署の名物アウトロー刑事、鷹山と大下が中心となって繰り成す大ヒットテレビドラマ「あぶない刑事」の劇場版第1弾。

テレビドラマの映画化は「あぶない刑事」が最初ではない。ただ、後に当たり前のように結ばれるテレビドラマのヒットを受けての映画製作という流れは、今にして思えば「あぶない刑事」が先駆けだったように思う。

ちなみに、中条静夫演じる近藤課長の名台詞「瞳ちゃん、お茶」の瞳ちゃん、婦警の山路瞳を演じる長谷部香苗は本作監督の長谷部安春の実娘。

製薬会社、仲光製薬の研究所が襲撃され、制ガン剤の開発を担当していた博士と助手が殺された。同時に、研究結果を入力してあったデータディスクが破壊され、バックアップテープもなくなっていた。産業スパイの線も疑われるこの事件、目撃者の情報により犯人の目星はついた。犯人の名は豹藤。ただ、この豹藤がつわもので、傭兵で公安からもマークされる人物であり、港署の鷹山刑事と大下刑事は一度取り逃がしていた。一方で気になる動向があった。完成寸前までいっていた仲光製薬の制ガン剤の開発が頓挫した為、競争会社のコスモ薬品の株価が一挙に倍に跳ね上がっていたのだった。

ハードな世界を軽口をたたきながら粋に描く。そんな作品は「あぶない刑事」以前に幾つもあった。また、二人組を主人公にした作品だって幾らでもあった。現に「あぶない刑事」の放送時間の前番組は「誇りの報酬」という中村雅俊と根津甚八が主演の刑事ドラマだった。

では、何故テレビドラマ「あぶない刑事」は大ヒットしたのか? まず挙げられる要因は時代にマッチしたからだろう。

時はバブル。誰もが未来永劫を疑わず、足元を確かめるよりも先や上に目線を置いていた時代。お洒落な街でお洒落な服装でお洒落に会話を弾ませながら繰り広げられる物語は、そんな時代の羨望であった事だろう。こういった作風はトレンディードラマの在り方そのものなのだが、「あぶない刑事」も大局的にはトレンディードラマと呼べるのかも知れない。

但し、一般的なトレンディードラマとは絶対的に一線を画するものがある。それは、ベースが「太陽にほえろ!」辺りを起原とする当時の刑事ドラマの本流に則っていた事であり、それに伴ってか渋めの出演者が顔を揃え、平均年齢も比較的高かった事である。そういった理由から一般的なトレンディードラマにはない安定感や重厚感が存在していた。その事も「あぶない刑事」の魅力に作用している事だろう。

そして何より大ヒットの最大の原因は、間違いなく舘ひろしと柴田恭兵のキャスティングであるだろう。高倉健と菅原文太の共演程ではないにせよ、それでも、ちょっと相容れないかにも思えた大物二人のタッグは、新鮮さも相まって観る前から胸の高鳴りを覚えた。実際、作品が進むに連れ、王・長嶋のONコンビと比べても見劣りする事のない、不朽の名コンビにまで発展したのは誰もが知るところである。

ポイントは柴田なのではないかと思う。舘だけならば、従来型のハードな刑事ドラマになっていたのではないだろうか。事実、後年製作された舘のダンディズムな美学が結集したような傑作刑事ドラマ「刑事貴族」の様子を見れば、あながち見当違いな見解ではないと思う。

「あぶない刑事」も当初はアンニュイなムードを醸し出す、ハードボイルドタッチなドラマだった。しかし、徐々に柴田の軽妙な持ち味が発揮され始める。但し、それだけでは不十分だ。柴田の軽やかなノリに舘が少しとぼけた感じで応酬する。そこで毛色の違う二人の間で絶妙な化学反応が起こり、それを起点にムードが周囲に浸透し、粋で洒落た「あぶない刑事」が晴れて完成したのだ。

「あぶない刑事」は、当時これまた大ヒットしていた海外テレビドラマ「マイアミ・バイス」の影響が取り沙汰されていた。確かに「マイアミ・バイス」の方が先に製作されているので意識にあったのかも知れない。事実、お洒落な身なりの二人組の刑事という点は紛れもなく共通している。

ただ個人的には、それ程影響は及んでいないと感じる。前述したとおり二人組の刑事モノは幾らでもあったし、「マイアミ・バイス」は洒落たムードは醸し出してはいても割と無骨な刑事ドラマだった。つまり、例え企画段階では「マイアミ・バイス」がイメージターゲットだったとしても、それに捕らわれる事なく独自の路線を見い出したのが「あぶない刑事」であり、その路線のあらゆる要素が絶好のタイミングで結実したのが「あぶない刑事」であると思う。

そんな「あぶない刑事」は、ある世代の人たちにとっては強い思い入れのある作品ではないかと思う。それは、ある世代の人たちにとっての萩原健一の「傷だらけの天使」、また、ある世代の人たちにとっての松田優作の「探偵物語」と同じような感覚ではないかと思う。

面白い事に、この3作品には共通点がある。1つは日本テレビのドラマである事。この3作品に限らず、このようなタッチのドラマは例外なく日本テレビのドラマであったと思う。各テレビ局には、それぞれの色があるが、この手の作風は日本テレビのお家芸と言えるべきものだったように思う。

もう1つの共通点は、舘、柴田、萩原、松田が同世代だという事だ。単なる偶然だとは思うのだが、製作年度が大きく違うにも関わらず、同世代が揃ってしまう事実は興味深く感じてしまう。

さて、肝心の本作の内容だが、テレビシリーズよりも事件の規模が大きくなっており、よって作品の展開、アクションの迫力もスケールアップしている。また、同時にテレビシリーズのおいしいところが盛り沢山に詰め込まれている。言わば、テレビシリーズのデラックス版といった感じの仕上がりである。

見どころは、やはりデラックスに感じる部分であるだろう。テレビシリーズ以上に掘り下げられた舘が演じる鷹山刑事と柴田が演じる大下刑事との関係。テレビシリーズ以上に体を張った鷹山刑事のバイクアクション。テレビシリーズ以上に豊かに表現される大下刑事の心情。テレビシリーズには収まり切らなかった事柄がプレミアムに盛り込まれているのが本作だと言えるだろうう。

もちろん、テレビシリーズを知らない人でも楽しめる作品だと思う。但し、本作が「あぶない刑事」の魅力のすべてを網羅している訳ではない。テレビシリーズを知らない人は本作を機会に是非ともテレビシリーズまで手を伸ばして、一時代を築いた「あぶない刑事」の世界を確かめてもらえたらと思う。

ウェリントンタイプのサングラスで武装したタフでクール、ダンディーでセクシーな「あぶない刑事」二人は、直視するのが困難な程、眩いばかりに輝きに満ち溢れている。

柴田、仲村トオル、中条静夫が再集結した「あぶない刑事」の派生作品とも言えるテレビドラマ「勝手にしやがれヘイ!ブラザー」も面白い。


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