自分勝手な映画批評
マイアミ・バイス マイアミ・バイス
2006 アメリカ 132分
監督/マイケル・マン
出演/コリン・ファレル ジェイミー・フォックス コン・リー
売春捜査をしているマイアミ警察のソニー(コリン・ファレル)の携帯電話に情報屋のアロンゾから半年振りに連絡が入る。アロンゾの言っている内容が把握出来ず、現在、アロンゾが協力しているFBIに問い合わせると、潜入捜査をしているFBI捜査官が相手方と顔合わせをしている最中だった。ソニーとリコ(ジェイミー・フォックス)はアロンゾの行方を追うのだが…

大ヒットTVシリーズをリニューアル

オリジナルのマイアミ・バイスと言えば1980年代のドン・ジョンソン(声/隆大介)主演のTVシリーズだ。確か、火曜日の午後9持から放映されていたこのドラマを私は楽しみにして観ていた。本作の監督であるマイケル・マンはTVシリーズのエグゼクティブ・プロデューサーでもある。

ドン・ジョンソンが演じたソニー・クロケットは高級ソフトスーツに身を包み、車はフェラーリ、住居は停泊しているクルーザーでワニと同居している。セレブなんて言葉がなかった時代の浮き世離れしたハイソサエティーな暮らしは80年代の華やかな夢を象徴するようであった。

但し、これらはすべて潜入捜査官としての自分の素性を隠す為であり、名前もソニー・バーネットという偽名で生活している。この辺りの設定は上手く、また、銃の構え方等も当時の日本のドラマには無い本物らしさが感じられた。華やかさとリアリティーの同居がオリジナルTVシリーズの魅力なのだと思う。

羅列した上記すべてではないにしろ、ある程度オリジナルの設定をそのまま持ち込んだであろう本作は、TVドラマらしいと言うべきか、昔ながらと言うべきか、昨今の作品とは多少異なるテイストが見隠れする。その最たるは登場人物である刑事達のキャラクターがバラエティーに富んでいる点だろう。特に、完全無欠のヒーローとは言わないが、スター性を感じる華のある刑事を主人公に据えている点は特筆したい。

面白いことに、オリジナルのTVシリーズはもちろん実写なのだが、どこかコミック原作を実写化したバットマンやスパイダーマンと同じようなオリジナルとの関係性を私は本作に感じた。オリジナルを重視する姿勢は、TVシリーズで築き上げられたソニー・クロケットという人物像を大袈裟な言い方をすればアメコミのヒーローのような確固たるキャラクターとして継承させた。コリン・ファレルの風貌を見れば瞬時にソニーであることが私は理解出来た。ただ、TVシリーズに馴染みのある私には、意地の悪い言い方をすればドン・ジョンソンを劇画調にしたコスプレにも見えてしまうのだが…

もっとも、TVシリーズを観ていない人には何の問題も無いだろう。本作の内容自体は極めて良く出来ている。用意周到に練られたストーリーはかなり入り組んでおり、複雑な裏組織の形態、そこでの人間関係と心理戦、わずかに綻んだ糸を慎重に解いていくような繊細さと、そこから生じるダイナミックな展開と臨場感は大変見応えがある。リアルな銃撃シーンも本作の大きな見どころだと言えよう。

懐古主義の単なる焼き直しであれば、箸にもかからない作品になってしまうように思えるが、素晴らしいストーリーと演出が故に、TVシリーズのファンであった私にも十分過ぎる程楽しめた。リアリティーある骨太なストーリーと華やかな登場人物の共存が本作の特徴だが、つまるところオリジナルのスピリッツに他ならない。枯渇したかに思えた当時魅了された楽しみを現代風にアレンジして蘇らせてくれたことを嬉しく思う。

先程はコスプレと称したコリン・ファレルだがオリジナルに敬意を表しつつも彼なりに消化し、彼ならではの男臭いセクシーさを香りだたせるのは見事。コン・リーのオリエンタルな艶やかさも魅力的だ。


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