自分勝手な映画批評
アンダルシア 女神の報復 アンダルシア 女神の報復
2011 日本 125分
監督/西谷弘
出演/織田裕二 黒木メイサ 伊藤英明
財務大臣の村上(夏八木勲)はパリの小さくて庶民的なレストランの店内で苛立っていた。この店にアメリカのクーパー財務長官が訪れるという話で待っているのだが、一向にそういった気配がないからである。

ちゃんと目を開けて歩かないと、何が正義なのかも分からなくなる

ヨーロッパの小国アンゴラで発生した日本人殺害事件の真相を追う外交官、黒田康作の奮闘を描いた作品。黒田康作を描いた作品の劇場版第2弾となる作品。

本作は映画として見れば「アマルフィ 女神の報酬」の続編にあたる。だが、「アマルフィ 女神の報酬」の後に連続テレビドラマ「外交官 黒田康作」が放映されているので、シリーズとしては「外交官 黒田康作」の次の物語となる。

但し、順を追って観なければ本作が理解不能な訳ではない。基礎となる設定は一貫しているものの物語はそれぞれ独立しており、作品を跨ぐような関連性は希薄。よって本作はもちろん、それぞれが単体として楽しめる作品になっている。もっとも、作品世界を存分に堪能するには、すべて観た方が有利であるのは確かであるだろう。

フランス・パリで行なわれているサミットに同行している外交官の黒田康作の元に、スペイン国境の国アンドラのホテルの一室で日本人の川島という男が殺害されたとの連絡が入った。川島は警視総監の息子。黒田はサミットを離れ、アンドラへと向かうのだった。事件の捜査はインターポールが行なう事となり、指揮を採るのは日本の警視庁から出向している神足という男。第一発見者も日本人でアンドラの銀行、ビクトル銀行に勤める女性、新藤だった。投資家だった川島はビクトル銀行の顧客。新藤は川島の直接の担当者ではなかったのだが、スペイン語の出来ない川島の通訳をしていた。事件は物取りの犯行という線で進められていたのだが、黒田には現場の状況で気掛かりな事があった。

テレビドラマと映画とを比較するのは難しいので「外交官 黒田康作」と本作との比較は避けるが、同じ映画である「アマルフィ 女神の報酬」と本作を比べた場合、本作には明らかな熟成が感じられる。その多くはストーリーの展開力と構成力に関してである。

基本的には「アマルフィ 女神の報酬」も本作もサスペンスを伴うミステリーの形式でストーリーは展開して行く。但し、「アマルフィ 女神の報酬」は、その成り行きから終盤の少し手前でミステリーから降りてしまった。それはストーリーの本質を考えれば納得が出来る。だが、ことミステリーの見地に立てば、いささか消化不良であった。本作では、その物足りなさは払拭され、最後までミステリーを貫徹している。

ミステリーの貫徹は簡単な事ではないだろう。正確には簡単ではないのは、ミステリーと物語の主題の両立と言った方が良いのかも知れない。ミステリーというのは、あくまでも物語を装飾する手段。つまりミステリーとなる動機、あるいは経緯が物語の主題な筈である。となれば、主題に力を入れたくなるが、そうするとミステリーが疎かになってしいがちである。逆にミステリーをしっかりしようとすると、主題の重みが失われてしまう。

本作は、この辺りのバランス感覚に長けている作品である。率直に言えば、本作の核心は「アマルフィ 女神の報酬」よりもスケールが小さい。ただ、その事によりミステリーに気兼ねなくウエートを傾ける事が出来たのだろう。そして、核心のスケールが小さい事を補う術として核心に肉付けがボリュームたっぷりに施されているので、物語の厚みが損なわれてはいない。しかも、その肉付けがミステリーの肥やしとなっている。

ストーリーを構成し、展開させるすべての要素が見事なまでに良好な関係を築き、相乗効果を上げていると言えるだろう。このような本作の総合力は、海外の一線級の作品と比べても、いい線いってると思う。

また、「アマルフィ 女神の報酬」と本作との違いはヒロインの人物造形、演じる女優の活用法にも表れている。「アマルフィ 女神の報酬」のヒロイン天海祐希と本作のヒロイン黒木メイサは、まるで同じとは言わないが、強い女性を演じられるという事に関しては共通する持ち味がある女優だと言えるだろう。

正直に言って「アマルフィ 女神の報酬」では、そんな天海の持ち味を活かせる作風であるにもかかわらず活かしていなかったので、もったいないと感じていた。しかし、本作は黒木の持ち味を存分に発揮させていると言えるだろう。この違いも熟成の跡であると思うし、何より本作の魅力に大きく貢献していると思う。

私の悪いクセなのかも知れないが、本作のような作風の作品に出会すと、イメージターゲットを007/ジェームズ・ボンドに設定してしまう。

本作の主人公、黒田康作とジェームズ・ボンドの共通点は国に仕える仕事をしている事。但し、ボンドが殺しのライセンスを持つスパイであるのに対し、黒田は、実際の活動は職務を大きく逸脱してはいるものの、基本的には一介の外交官である。この違いはアクションのスケール面で大きく影響を及ぼす。

だが、この違いはストーリーの面では逆に作用しているように思う。何でもアリのボンドであるが故に、007シリーズのストーリーは時として甚だしく現実離れしている。しかし、黒田康作シリーズは制約の多い黒田の立場と外交官という仕事の資質が影響してストーリーには現実的なダイナミズムが感じられる。

但し、007シリーズも随分と様変わりしてきた。ダニエル・クレイグがボンドを務める「カジノ・ロワイヤル」からは現実的な路線へと変更している。そういった事を踏まえると本作は、モダンクラシックなトーンも相まって、クレイグ・ボンドの007シリーズに通じるようなセンスを持った作品ではないかと思う。

出番は極少なのだが、「アマルフィ 女神の報酬」からの引き続きのキャスト、戸田恵梨香が物語にちょっとしたアクセントをつける良い演技をしている。シリアスに傾倒する物語の中で戸田と織田裕二の掛け合いは、しばしのオアシスのようで微笑ましい。


>>HOME
>>閉じる















★前田有一の超映画批評★

おすすめ映画情報-シネマメモ