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見えなかった真実とは… 渓谷の吊り橋での事件と、その事件の裁判を通じて、兄弟、あるいは人との絆の行方を描いた作品。 冒頭、古いアメリカのステーションワゴンに乗り、60年代後半、あるいは70年代前半を思わせるようなジャジーな音楽をバックに田舎に向かうオダギリジョー演じる主人公の猛。このシーンは、ただ単に作品にスタイリッシュな味付けをしたのではなく、猛の人物像の根底を、いみじくも象徴しているように感じる。 吊り橋での事件を発端にして、本当の意味での兄弟の絆が試されていく。稼業を継ぎ、田舎町で生真面目に暮らす兄と、東京へ旅立ち、奔放に生きる弟。対称的な二人だが、兄は自分とは違う弟を羨ましく思いながらも陰日向で支え、弟も兄に対する絶対的な信頼を持っている。だが、吊り橋での惨事が、二人の関係に亀裂を生じさせる。もっとも、平穏な関係が保てていたのは、この上なく絶妙にとられていたバランスのお蔭だったようだ。 人間誰しも、自分を信じて生きているのだろう。それは、いわゆる自信と呼ばれる大袈裟なものではなく、もっと根本的に日常生活を送る上で、必要不可欠な感覚であり、逆に言えば、それがなければ、生きていくのは中々難しいのではないかと思う。そんな中、どこかで自分を正当化し、自身を保つ作業を無意識に行っているのかも知れない。 ただ、何かのキッカケで過ちに気付いたのならば、それまでの全てが瞬時に崩壊し、今までしてきた事に懺悔するようになる可能性もある。だが、良い方向に考えるのならば、見えなかった真実が見えるようになるとも言えるだろう。 悲しい事件が起こった瞬間から、全てが様変わりし始める。今まで隠されていたのか、それとも直視しようとしなかったのか分からないが、苦々しい現実が露となり、最後の最後まで主人公の心を痛めつける。 兄役の香川照之が良い。これ以上やったら台無しになってしまうギリギリのラインで、静かなる男の狂気を魅せる。それゆえ、深みとリアリティーを感じさせる。新井浩文の鋭い目つきも印象的だ。 |
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