自分勝手な映画批評
チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜 チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜
2017 日本 121分
監督/河合勇人
出演/広瀬すず 中条あやみ 山崎紘菜 富田望生 福原遥 天海祐希
アメリカのカリフォルニアで開催されている全米チアダンス選手権。演技の順番が回ってきたJETSは、円陣を組んで気合を入れた。

前髪あってもブスはブス!

女子高生のチアダンス部が、アメリカのチアダンス大会で優勝するまでの軌跡を描いた作品。

本作は実話を元にしている。偉業を成し遂げた実話映画は強い関心を引き起こすが、よくよく考えてみると観る前から結末が分かっている映画という事になる。

もちろん、結末が既知であっても、そこに至るまでのプロセスには依然として関心が残る。しかし、そうであっても結末が観る前から露呈しているという事は、映画として致命傷であってもおかしくない痛手である筈だ。従って、本作のようなタイプの作品は実は難しい作品なのだと言える。





福井県立福井中央高校に入学したひかりは、チアダンス部に入部する事に決めていた。理由は、彼氏の孝介がサッカー部に入部するからであり、孝介が全国高等学校サッカー選手権大会に出場した際に孝介をチアダンス部員として国立競技場で応援する為だ。だが、顧問の早乙女の話を聞いて、唖然としてしまう。早乙女は、チアダンスの本場アメリカの全米大会での優勝を目指すと言う。そして、スカートは膝丈、ネイルと恋愛は禁止、前髪も禁止で、おでこ全開にしなければならないとも言う。早乙女の話に反発した上級生達は皆、その場でチアダンス部を退部。ひかりもチアダンス部には入部せず、違う部活にしようと考えていたのだが、孝介に「期待してるは、チアダンス部の応援」と言われ、すぐに翻意、チアダンス部に入部した。





以前、高校のチアリーディング部に密着取材をしているテレビ番組を観ていたのだが、そこで驚きの事実を知り、その事実に大きな感動を覚えた。

密着取材を受けているチアリーディング部は日々、必死になって練習をしていたのだが、大会で演技が上手く出来なかった。そして演技終了直後、会場の通路みたいな所で部員達は泣いていた。それは、ごく自然な状況に思えたのだが、そこに顧問の先生だったか、コーチが現れて発したのが意外な言葉であり、「早く客席に戻って応援しなさい」というような言葉だった。

高校生チアリーディング大会の会場の客席で多勢を占めるのは、大会に出場する各高校のチアリーディング部員であり、自分達の演技の前後には客席にいるのだが、客席のチアリーディング部員達は演技をしているチアリーディング部を応援している。もちろん、演技をしているのは他校のチアリーディング部なのだから、対戦相手を応援しているという事になる。

言うまでもなく、競技には勝敗がつく。よって、対戦相手のミスは自分に有利に働く。だから、対戦相手がミスをすれば喜ぶし、対戦相手がミスするようにと願う場合もある。競技によっては、対戦相手のミスを誘うような戦術をとる場合もある。

だが、そういった事をチアリーディングは善しとしない。何故なら、チアは応援する事を目的としているからだ。なので、対戦相手であっても応援をする。そして、そのテレビ番組では映し出されていなかったと思うのだが、もし、演技のミスを目の当りにしたら、客席のチアリーディング部員達は残念がり、次の瞬間、更に大きな声援を送るのだろう。

本作によれば、チアリーディングとチアダンスは違うらしい。しかし、本作を観る限り、チアという事は同じなので、チアの精神、チアスピリッツは共有しているようだ。だから、どういった意図で本作が製作されたのかは私には分からないが、仮に実話でなかったとしても、チアを通じて青春時代を描くというのは、とても相応しい事なのだと思う。

と同時に、チアスピリッツを描いた事で、前述した結末既知の問題を無きものにしたとも思う。本作はチアダンス大会優勝という偉業達成へのプロセスを描きつつも、女子高生が人間的に成長するプロセスも描いている。だから、よくあるゼロから始まる技術系サクセスストーリーとは一味違い、よって、結末が事前に分かっていても、十分な見応えは感じられるのだ。

広瀬すずは、青春映画のヒロインが良く似合う。ドジだが周囲から愛される主人公のひかりは、青春映画のヒロインのステレオタイプだと言えるが、そのステレオタイプを広瀬は最大限に演じており、それは実に見事な事だと思う。そして、広瀬の演技には強さがある。その事も薄っぺらなステレオタイプのヒロインになっていない要因となる。クライマックス近く、天海祐希演じる早乙女先生を睨みつけるような広瀬の目が印象的だ。

本作には、もう1人のヒロインと呼べる登場人物がおり、それが中条あやみが演じる綾乃だ。ひかりと綾乃はコインの表裏のように描かれており、そうする事で陥りがちな物語の画一化を防いでいる。ただ、一方で表裏であっても同調があるので、逆にメッセージは画一化されて力強いものとなるという効果もあるのだから、とても良く出来ている。

そして、中条のキャスティングは大正解だったと思う。中条は、綾乃には口には出していない心の葛藤がある事を儚さを漂わせる表情を駆使して、巧みに匂わしている。それが想像力を刺激するので、物語には更なる奥行きが加わっている。

広瀬と「ちはやふる」で共演した真剣佑が本作にも出演している。「ちはやふる」で真剣佑は福井弁を話す人物を演じているが、本作の舞台は福井なので、本作でも福井弁を話している。しかし、本作と「ちはやふる」とでは、まったく違うキャラクターなので感心してしまった。

本作の趣旨からは少し脱線するのだが、もし、本作を観て、このサクセスストーリーに興味が持てたのであれば、円山夢久著の「チア☆ダン『女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話』の真実」という本を読んでみて欲しい。本作は実話を元にしたフィクションであるが、この本はタイトルが示すとおり、ノンフィクションとなっている。主人公は本作で天海が扮する先生のモデルとなった五十嵐裕子先生である。

この本には本作には描ききれなかった部分も記されており、それが大いに感動を呼び起こす事、請負だと言える。また、その一方で本作を製作するにあたり、何を取捨選択したのか、どのようにアレンジしたのかというのが分かるので、それも有意義ではないかと思う。

そして、主人公の五十嵐先生に天海をイメージしてしまう事も面白い。もちろん、本作を観終わった後に読めば、そういった錯覚に陥る事は自然な成り行きなのだが、必ずしも、そうとは言い切れず、少なくとも活字からイメージする五十嵐先生は天海に符合するのである。そう考えると、天海のキャスティングは実に奥深い。

読みやすい内容、構成になっているので、読書が苦手な人でも一気に読破出来るのではないかと思う。「しょうがないよ。先生の良さは、卒業してからじゃないとわからないんだから」という言葉が胸に染み入る。


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