自分勝手な映画批評
ダイ・ハード ダイ・ハード
1988 アメリカ 131分
監督/ジョン・マクティアナン
出演/ブルース・ウィリス アラン・リックマン レジナルド・ベルジョンソン
ロサンゼルスの空港に到着した飛行機に搭乗しているマクレーン(ブルース・ウィリス)。緊張した素振りを見せるマクレーンに隣の客が「ハダシになって足の指を丸めジュウタンの上を歩け」と飛行機嫌いを治す方法をアドバイスする。

俺としたことが… 何で、こんな目に遭うんだ?

原作はロデリック・ソープの小説。高層ビルに人質をとって立て籠るテロリストたちに一人で戦いを挑む刑事の奮闘を描いたアクション作品。

本作はアクション映画の金字塔と称しても過言ではない作品であると思う。エンターテインメントの進化の成り行きの中で、当然のごとくアクション映画も進化してきた。そして当時辿り着いたのが、シルベスター・スタローンやアーノルド・シュワルツェネッガーのような究極なマッチョな肉体を持つヒーローが活躍するアクション映画であった。そんなアクション映画の状況に一石を投じたのが本作である。ちょっと大袈裟な物言いのはなるのだが、先を急いだ人類が曲り角を迎えた時代を象徴するような作品であるようにも思う。

ジョン・マクレーンはニューヨーク市警の刑事。既婚者であり子供もいるのだが、妻のホリーと子供たちはホリーの仕事の関係でロサンゼルスに在住しており、マクレーンとは別居している。マクレーンはホリーの勤める日系企業ナカトミ・コーポレーションのクリスマスパーティーに招待され、一人でロサンゼルスへ向かいナカトミ・コーポレーションを訪ねる。別居に至る経緯から良好な夫婦仲ではなかったのだが、久しぶりの再会に喜びを感じる夫婦。しかしそれも束の間、お互いの意思が噛み合わず仲たがいしてしまう。そんな時、テロリストたちがナカトミ・コーポレーションのビルに押し入りビルを占拠した。

本作の主人公であるマクレーンは完璧なヒーローではない。どこか不完全で、人間味を感じさせる等身大のキャラクターである。それはスタローンやシュワルツェネッガーが築き上げた、ある意味ではサイボーグのようにも感じるアクションヒーローとは対極なキャラクターだと言えるだろう。そんなキャラクターにブルース・ウィリスが実に良く似合う。本作はウィリスが一躍スター俳優の仲間入りをした作品であるのだが、その理由は本作を観れば十分納得出来るだろう。

但し、本作はウィリスの魅力だけでは成立しない。むしろ素晴らしい設定とストーリー展開が本作の魅力の本質だと言えるのかも知れない。

まず設定が良い。封鎖された高層ビル内で繰り広げられる物語は、パニック映画と同じような様相を呈している。閉息感がある状況での危機感は絶大。その辺りが本作のスリルの根源であると言えるだろう。そして舞台であるビルが完成間近、すなわち当時の最先端のハイテクが設備されているビルであり、篭城するテロリストが、そのハイテクを使いこなせるまでの頭脳も技術も持った強敵である事も本作の大きなポイントである。

後年、ラスト・ボーイスカウトという作品に出演したウィリス。本作で演じるマクレーンも、時代遅れとまで言ったら言い過ぎだが、最先端の英知とは掛け離れた現場叩き上げの刑事である。つまり極端に言い表わせば、本作はハイテク対アナログの構図で繰り広げられる物語なのである。ハイテクにも精通した完全無欠のテロリストに現場の経験で培われた知恵で一介の刑事がどう挑むのかが最大の見どころであり、この描写が長けている事が本作の秀でたところであるだろう。

物語のメインはビル内部で繰り広げられるのだが、ビルの外部にも物語は存在している。このように手広く描く事は作品を散漫にしてしまう可能性もあるのだが、本作は上手い具合に処理をしており、作品の魅力を上積みしている。

特にマクレーンと無線で交信する警官パウエルとの友情は本作では欠かせないポイントとなっている。また、状況の本質を把握していない上官刑事やテレビリポーターの登場は、いささか大味にも感じられるのだが、物語に多面性をより一層与える役割として効力を発揮しており、作品を豊かにしていると言えるだろう。

心を上手い具合に揺さぶる優秀な脚本とウィリスの魅力が互いに引き立てながら乗算されて生み出された本作は、何年経っても色褪せない傑作であると思う。


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