自分勝手な映画批評
友よ、静かに瞑れ 友よ、静かに瞑れ
1985 日本 103分
監督/崔洋一
出演/藤竜也 倍賞美津子 原田芳雄 室田日出男
沖縄の多満里地区でフリーインという名のホテルを捜して車を走らせる新藤(藤竜也)。新藤はフリーインの場所を住民に訪ねるのだが、行く先々で嫌な顔をされる。

男は見えないものに命を賭ける

原作は北方謙三の小説。旧友の為に奮闘する男の姿を描いた作品。

派手なアクションこそ見当たらないのだが、まさにハードボイルドを絵に描いたような作品であると言えるだろう。正直、多少の綻びを感じさせるストーリーは、現代の規準を満たしているとは言えないのかも知れない。その規準の所為なのか、はたまた演じる役者の質なのか、本作のような作風は現代ではあまり目にしないように思う。だが、絶滅させるには惜しいと感じる程、本作には渋みある大人の男の美学が詰まっているように思う。

藤竜也演じる新藤は、大学時代からの旧友の坂口が警察に捕まった事を知り、その地である沖縄に赴き、坂口の釈放の為に奔走する。坂口が捕まった事件の裏には、地元建設業者の土地買収の問題が絡んでいた。

物語は展開も含めて比較的地味だと言えるだろう。ただ、その分、人間心理に重きを置いた描き方が出来るスペースが確保出来たとも言えるだろう。だがしかし、その人間心理の描写も目に見える抑揚がある訳ではなく、至って地味である。但し、それこそが大人のドラマである事を証明していると言えるだろう。

ストーリーを小刻みに展開させ、台詞を多用して作品を進行させるのではなく、行間に滲み出る哀愁を用いて人間ドラマを成立させる。これは藤竜也をはじめとする趣ある役者でなければ成し得ない境地だ。目一杯に体を使い、顔を歪ませ、大声を張り上げて表現するのではない。歩んで来た道のりを感じさせる、醸し出す存在感で魂を表現して物語を突き進めて行くのである。

「男は黙って…」なんて古いCMのキャッチフレーズがあったが、まさにそんな大人の男たちが本作を築き上げている。大人とは、守るべきモノをしっかりと背中に背負い込み、両肩でその重みを実感している者を指すのかも知れない。そして重いからといって不平や泣き言を漏らす訳ではなく、歯を食い縛ってでも平静を装おうとする心意気が、現代では忘れかけられている大人の男の美学であるように思う。

確かに意思の疎通のままならない人格は、社会から排他されてしまうのかも知れない。しかし、それを理解しようとする糊代が社会に残っているならば、男は男としてもっと成長するようにも思える。

本作のすべてが集約されたクライマックスは、中々の名シーンではないかと思う。同調さえも善しとしない、孤高で虚しき男たちの美学を、穏やかな沖縄の青い空が果てしなく見守っている。


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