自分勝手な映画批評
トム・ホーン トム・ホーン
1980 アメリカ 98分
監督/ウィリアム・ウィヤード
出演/スティーブ・マックィーン リンダ・エヴァンス リチャード・ファーンズワース
1901年、ワイオミング州に辿り着いた西部の英雄トム・ホーン(スティーブ・マックィーン)は、酒場でボクサー相手にひと悶着を起こす。その場に居合わせたジョン・コーブル(リチャード・ファーンズワース)は自分の牧場を守って欲しいとトムに頼む。

英雄の切ない末路

アパッチ戦争で首長ジェロニモを捕虜にして名を上げた、実在した西部開拓時代の英雄トム・ホーンの晩年を描いた作品。

大人の男の味わい豊かな作品だ。大人の男と言っても、バリバリに働く男の姿ではない。ピークを過ぎた、枯れかけた哀愁が本作には描かれている。英雄の武勇伝ではなく、武勇伝を持つ男のその後の姿に着目した点はユニークであり、内容自体も大変興味深い。

名を轟かせた英雄トム・ホーンは、新たな地で名声と経歴を買われて、牛を盗む荒くれ者から牧場を守る仕事に就く。彼は仕事を実直にこなすプロフェッショナルである。しかし、血なまぐさい生死の境を渡ってきた男の仕事振りは、平和を取り戻し、穏やかな生活を送る一般の感覚には馴染まない。

本作でキーとなるのはギャップであろう。戦場を仕事場としてきた男と、平穏な暮らしをしている住人とのギャップ。簡単に言えば、住む世界が違うという事であろう。おそらく、その感覚は住人たちの方が強く感じていただろう。所詮よそ者だとも思っていたのかも知れない。

だが、よそ者であるトム・ホーンにとっては違う。おそらく彼は、安息を求めてこの地に辿り着いたのだろうし、よって馴染もうとしていたのだろう。だが、それには、彼が生きてきた人生が妨げとなった。決して過去の栄光にしがみついている訳ではない。だが、彼が永年歩んでいた道で培われた、ありとあらゆる事が、容易くそれを許さなかった。意識や感覚といった彼の内面はもちろんだが、彼が得た名声も邪魔をしていたのかも知れない。

不器用な男が新天地に馴染めなかったと言えば、それまでなのだが、偉大な功績を残した英雄の末路としては、あまりにも寂しすぎる。もしかすると、地位や名誉といった事に無頓着だった事が原因なのかも知れない。過去の栄光にしがみついていれば、チャホヤされながらも馴染めただろう。

しかし彼は、それを善しとはしなかった。自分の腕だけが頼りの実力の世界で生きてきた男には、そもそも、そんな考えなど思いもよらなかったのだろう。確かに下手な生き方なのかも知れないが、その潔さは敬うに値するであろう。だが、結局は、その潔さが自分の首を絞めた事にもなる。但し、彼にとっては、それが本望だったのかも知れない。

人生には浮き沈みがつきものなのかも知れない。繁栄している時があれば、そうでない時もある。繁栄している時が華やかであればある程、そうでない時は、得てして落ちぶれたなんて言われそうだが、必ずしもそうとは限らない。少なくとも本作は、惨めな晩年が描かれている訳ではない。

何と言ってもスティーブ・マックィーンが素晴らしい。枯れかけた風合いは、歩んできた年輪を感じさせる。それは、彼自身のパーソナリティーにオーバーラップしているようでもある。モータースポーツ等に勤しんだ私生活も影響していると思うが、玄人肌を感じさせる役者であるマックィーンにとって、かつての英雄という役柄は、年齢的な事も踏まえると、実にリアリティーがあり、まさに適役だと言えるだろう。

奇しくも、本作の公開の翌年にマックィーンは亡くなっている。本作撮影時には病に侵されていたらしい。その事が本作にどう影響しているのか分からないのだが、何かを悟ったような円熟味を感じさせるマックィーンの演技は、本作の生命線とも言うべき深い情緒をもたらしている。


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