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いつもとは違う速度で時を刻む 原作は瀬尾まいこの小説。自殺をしに来た女性と、その女性が泊まった民宿の主人との交流を描いた作品。 本作のテーマは生と死であり、そんな難しいテーマを、ある意味、ユニークな視点でとらえた作品だと思う。ユニークに感じられるのは登場人物の感情・態度の温度差だ。思い詰めて死のうとする者に対し、自殺の名所の住人は、「またか〜」とまでは言わないものの、まるで日常の風景を見届けるように平穏を崩さない。この辺りが実に深い。 自分では、この世の終わりに感じていても、世の中は、何食わぬ顔して動いている。絶望の淵にいる自分と他者、あるいは世間との温度差。ともすれば、この温度差は冷淡で残酷なのかも知れない。だが、歩く事を止めた足を、再び始動させるには、例え他人にアシストしてもらったとしても、結局は自らの意志で行わなければならない。意識的に作られた温度差は、決して傍観し見捨てている訳ではなく、痛みを知る者が与えた優しさなのだろう。 本作がテーマにしている問題の答えは、決して1つではない。ゆえに、本作で描かれている内容は、場合によっては必ずしも正解ではない。だが、直線的・直球な描き方がされていない事で、問題の重大さと複雑さ、そして、解決方法が画一的ではなく、万能なマニュアルがない事を、より感じられるのではないかと思う。 主人公に加藤ローサをキャスティングしたのは大正解だと思う。彼女の持ち味は人間の陽の部分を、より魅力的に表現できるところだと思う。死という重いテーマでありながら、お涙頂戴な作品にはなっていない。ストーリーや設定にその主はあると思うのだが、その象徴として彼女が居る。もちろん主役なので当たり前なのだが、その役割以上の効果をもたらし、作品を牽引して行く。 徳井義実も良い。決して人気お笑い芸人を起用した安易なキャスティングではない。優しさを多分に含んだ木訥さは彼ならではであろう。誰のものだか忘れてしまったのだが「昔は才能がある人は音楽の道に進んだが、今はお笑いの道に進んでいる」といった旨の発言を耳にした事がある。その発言の信憑性を確かめる事は出来ないのだが、本作の徳井を見る限りそうかも知れないと思ってしまう。肩肘張らない自然な演技をしっかり魅せる彼も、類い稀な才能の持ち主なのだろう。 |
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