|
||||||||||||
太平洋横断した男の記録 小型ヨットで94日間の西宮〜サンフランシスコ間の単独太平洋横断を成功させた堀江謙一の同名の手記が原作。当時の日本の法律では小さいヨットで出国することは許されなかった為、パスポートも持たない密出国であった。なので本来ならば到着地であるアメリカ・サンフランシスコでは入国を拒否される筈であるのだが、堀江謙一の偉業を称え入国を許可、さらには名誉市民の称号さえ与えた。 本作は石原裕次郎が日活から独立して設立した石原プロモーションの製作による劇場映画第1弾作品である。神奈川県の逗子で育ちヨットを嗜む裕次郎にとってはもってこいの作品だったと言えるだろう。私の記憶では、裕次郎が本作で苦労したのは、茶目っ気タップリのリップサービスだとは思うが、英語が話せる裕次郎の英語の話せない堀江の英語の発音の演技だったと言う。 基本的には裕次郎の船内でのひとり芝居による映画。その中に出航までのプロセス、主に両親・妹とのかかわりが部分部分で挿入される。めずらしい裕次郎の関西弁のテンションに面喰らうのだが、後々深まる孤独との戦いとの良いコントラストになっている。 自然の脅威はもちろんなのだが、まったく船の航海に知識のない私にとって、風や海流を考えた緻密な航海プランには驚かされる。それでも無知な私には、いくら万全の準備で望んだとしても、大昔の漠然と北極星を目指しての航海のような想像を絶する大冒険のように思える。加えて、まさにタイトルどおりの大海原での孤独。徐々に深まる鬱な精神状態。それを打ち払おうとする気力。ひとりぼっちの極限の心理が上手く描かれている。しかし冒険に対する喜びはある訳である。純粋な映画鑑賞の行為からは逸脱してしまうのだが、堀江謙一とオーバーラップした大スター石原裕次郎として観た場合、薄汚れた姿で航海を楽しむ裕次郎を観ていると、本当の贅沢とはこういうことなのだろうと感じてしまう。 生前、裕次郎は「俳優は男子一生の仕事じゃない」と言っていたらしい。しかし彼は生涯俳優だった。彼は自身で会社を設立してから、本作や「黒部の太陽」「栄光への5000キロ」等、実話を元にした男のロマンを描いた作品を製作している。俳優を男子一生の仕事にした男はスクリーンの中に自分の夢を重ねていたのかもしれない。 |
>>HOME >>閉じる |
|||||||||||
★前田有一の超映画批評★ おすすめ映画情報-シネマメモ |
||||||||||||