自分勝手な映画批評
伝染歌 伝染歌
2007 日本 128分
監督/原田眞人
出演/松田龍平 大島優子 秋元才加 伊勢谷友介
女子高生の香奈(前田敦子)は同じトライアスロン部のあんず(大島優子)の目の前で「お先に」の言葉を残し短刀で自殺してしまう。

ヒットメーカーの新たな目論見

秋元康原作。彼は好んで作詞家という肩書きを使用しているが、ご存知のとおり、その肩書きでは納まりきれない活躍をしている。

彼はいわゆるメジャーな立場であるのだが、AKB48という秋葉原で決して大きいとは言えない会場での公演を主とするアイドルグループを仕掛けている。彼がメジャーたる所以のひとつは多くのヒット曲、番組等を世に送り出しているからであって、何故ヒットしたかといえば、当たり前だが多くの人が見聞きしたからである。多くの人が見聞きするためには、全国に知れ渡らなければならない。そう考えると秋葉原という局地での公演を主とするAKB48の地道な活動はメジャーではなくマイナーな活動と言えるだろう。実際、彼が以前手掛けたおニャン子クラブは素人をいきなりテレビ出演させ、短期間でレコードデビューさせるというAKB48とは真逆な手法をとっている。

しかし彼が常にメジャーでいる所以は、時代を作っている、あるいは仕掛けている点であろう。そう考えれば、いくら自分の手法であっても同じ事をやれば二番煎じでしかない。時代に仕掛け、作っていくのであれば、新しいモノを送りだすのは常だ。そう考えれば、マイナーあるいはインディーズなAKB48は時代に立ち向かう彼の新しい方法論だと言えるだろう。

随分と前置きが長くなったが、本作に描かれているのは都市伝説にまつわる話であり、AKB48のみならず、秋元康の興味はインディーズだとかアンダーグラウンドといった世界なのかもしれないと感じ、ヒットメーカーの頭の中を覗き見るようで、その点だけでも興味深かった。

都市伝説は信憑性の観点から言っても非常にマニアックな話であり、NHKのニュースで取り上げられる事はない、まさにメジャーではない世界の話である(そもそもNHKのニュースで取り上げられた時点で都市伝説ではなくなると思う)。しかし確かに面白くそそられる話であり、需要も多いのであろう。

都市伝説の生命線は真実味だ。話自体はもちろんだが、話す人の話術も重要である。これは都市伝説に限ったことではなく、通常の会話にも当てはまると思う。立派な考え・熱い想いでも伝わらなければ意味を成さず、逆にたいした事でなくても伝われば騙されてしまう。そしてこれは奇しくも映画にも当てはまる。脚本・演出・演技等。伝わるか伝わらないかは、それら次第である。

ただし、生命線が真実味なのはその都市伝説がフィクションである場合であって、都市伝説と言われている事が事実であるなら、当たり前だが真実味うんぬんなんて関係なくなり、さらには都市伝説ではなくなり事実となる。しかし都市伝説だと言い伝えられるということは、にわかには信じ難い超常的な現象であり、そうであれば原因もまた現実には信じ難い、本作で描かれているような事であるのではないのだろうか? 

結末を違うカタチ、例えばオチのようにすればひねりの効いたスマートな作品になっただろうが、死人が出ている時点でそれは無理があると思われる。とすれば本作は都市伝説の真実をあくまでもストレートに描いた作品だと言えるだろう。そういう意味でもホラーというより都市伝説にまつわる群像劇と言えるのではないかと思う。

多彩なカメラワークと飾らない演技でドキュメンタリーにも通じるような臨場感を生み恐怖心を煽る。キャスティング的に見ればAKB48のメンバーを多数配しており、アイドル映画ともとれるであろうが、彼女達の演技は本作の雰囲気にちゃんと即していると思う。松田龍平、伊勢谷友介、堀部圭亮といった面々はやはり流石で、アンダーグラウンドに生きるクセ者感を素晴らしく演じている。


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