自分勝手な映画批評
仁義なき戦い 仁義なき戦い
1973 日本 99分
監督/深作欣二
出演/菅原文太 松方弘樹 金子信雄 梅宮辰夫
昭和21年、広島県呉市で女が米兵達に襲われそうになっていたところ、その場に居合わせた広能昌三(菅原文太)が助けた。

ワシら、どこで道、間違えたんかのう

2014年11月18日、高倉健死去とのニュースに日本列島には衝撃が走り、その衝撃は海を越えて異国の地にまで及んだ。当然、数多くの追悼コメントがマスコミを通じて発せられたのだが、その中に菅原文太のコメントはなかった。

高倉と菅原の関係性、及び、菅原の立場を考えると不思議に感じたのだが、その理由は1カ月も経たぬ間に判明した。11月28日、菅原もこの世を去ってしまったのだ。高倉が亡くなった11月10日、訃報が伝えられた11月18日には、すでに菅原も病床にあったのである。

高倉と菅原は共に、やくざ映画で圧倒的な支持を受け、稀代のカリスマまでに上り詰めた俳優である。テレビドラマ「傷だらけの天使」で萩原健一扮する主人公、小暮修の一人息子の名前が健太と言い、高倉と菅原から一文字ずつとって命名されたという設定からも高倉と菅原の絶大な影響力を伺い知る事ができる。

年齢的にもキャリアの上でも後輩にあたる菅原は、高倉の地位に追いついたと言えるのだが、その事が名実共に証明されたのが本作から始まる「仁義なき戦い」シリーズである。





広島県呉市、広能昌三は闇市近くの食堂でレコードを聴きながら酒を飲んでいたのだが、そこへ友人の山方が顔を血まみれにし、男に連れられて現れる。男によると闇市で山方は、その男とやくざ者の揉め事の仲裁に入ったのだが、やくざ者に日本刀で切りつけられたらしい。男は広能に、土建屋の山守に仲間がいるので仕返しに行くように伝えてくれと言う。山守の連中と一緒に闇市へ向かう広能。そこで誰がやくざ者を殺るのかという話しになり、広能は「ワシが殺っちゃろうか。やられたんはワシの友達やし。」と提案する。広能はリーダー格の坂井から拳銃を借り、やくざ者を射殺する。





本作は多分にフィクションが混じっているものの、実際に勃発した暴力団同士の抗争、広島抗争を物語のベースにしている。それは非常に興味深いところではあるのだが、別段、その事に関心を持てなくても存分に見応えを感じさせる作品となっている。何故なら、実話であろうがなかろうが、作品自体、リアリティー溢れる仕上がりとなっているからである。

もっとも、実話ベースなのだから、そういった演出に舵を取るというのは自然の成り行きだと言える。だが、リアリティーとは異なるファクターで、より一層、リアリティー効果を高めている点が本作の面白いところだ。それは何かというと、ナレーションとテロップ、及び、音楽である。いずれも現場には存在しないものなのだが、ナレーションとテロップを用いることで、ドキュメンタリータッチな作風を向上させ、また、ショッキングな音楽を用いることで緊迫感を更に身近にさせることに成功している。

そして、凄まじい熱量を感じさせる作品でもある。本作には原作があり、広島抗争の当事者、美能幸三の手記を元に飯干晃一が執筆したノンフィクション小説が原作である。原作小説は当時、大変な評判を呼んでいたのだが、古今東西、人気小説を映画化する事は常套手段だ。また、当時、やくざ映画には需要があり、とりわけ本作を製作した東映が得意とするところであったので、本作の実現は必然だったように思える。

しかし、そう簡単な話ではないのだ。と言うのも、やくざ映画はそれまで「仁義ある」やくざ映画だったのであり、本作のような「仁義なき」やくざ映画は前代未聞だったのである。もちろん、東映には勝算があったから映画化に踏み切ったのだろうが、それでも相当な意気込みで臨んだのではないかと思う。

意気込みは出演者にもあったに違いない。本作には、超ビッグスターの出演はない。従って、人気小説が原作でヒットが期待出来る本作への出演は飛躍、あるいは名を売る大きなチャンスだったのである。

実際、前述したとおり、菅原は本作をカリスマへの足掛かりとしたのだが、何でも菅原は本作への出演を熱望していたという。展開が目まぐるしく、登場人物も多い為、出演者、それぞれの持ち時間は不足気味ではあるのだが、各人が十二分に存在感を示しており、所狭しと披露される数多くの迫真の演技は本作の大きな見どころとなっている。

ただ、意気込みが集結して熱量となる中、金子信夫の味のある演技にも注目したい。他の俳優が総じて硬質な演技をしているところ、金子の演技は軟質。そして本作の「仁義なき」は金子が演じる山守組長なくては成立することはなく、その山守組長を金子は、どこまでも嫌らしく演じている。つまり、本作のクオリティは影で金子がイニシアティブを握っていたと言えるのであり、それは結局のところ、菅原に芽生えたカリスマ性に金子が貢献しているとも言えるである。山守組長の妻を演じ、金子と同調する演技をみせる木村俊恵も良い。

だが、金子のアシストがあったにせよ、菅原のカリスマ性は本作を観れば十分に理解できる筈だ。菅原が生涯持ち続けた貫禄は、すでに本作で出来上がっている。そして、松方弘樹も同等の貫録を見せつけている。松方は菅原よりも大分、年齢が若いので、その点において立派だと思う。田中邦衛、渡瀬恒彦といった面々の個性豊かな悪役風情も印象に残る。

血なまぐさい本作は、観る者を選ぶ作品だと言えるのかも知れない。ただ、映画好きであれば、是非とも体験しておくべき作品だと思う。


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