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忘れられない風景がある 原作は芦原妃名子による漫画。長きに渡る恋の行方を描いた作品。 後生大事に過去の恋愛を抱えている人もいるだろう。普段は密封して心の奥底にしまっておいたとしても、ひとたび取り出して封を開けば、あの頃の想いが一気に、そして寸分変わらない鮮度で蘇るような恋愛。特に初恋に近いような若き日の恋愛は、綺麗な状態のままで保存され、大切に保管されているものなのかも知れない。 幼心が通い合う、無垢で健気な恋愛を描いた本作は、自分の春色の恋愛の記憶を呼び起こさせるような作品なのかも知れない。但し、センチメンタルに美しく訴えかけるばかりの作品とは少し様相が異なる。 夫に逃げられ、母のいる島根の実家に中学生の娘・杏を連れて戻ってきた美和子。杏は、その地で大悟をはじめとする同年代の子供たちと仲良くなり馴染んでいたのだが、美和子の気持ちは晴れなかった。ある夜、眠れない美和子は外の空気を吸いに一人で外出をした。そのまま戻らない美和子。後日、自殺した美和子が発見された。 本作の大きな特徴は12年もの長いスパンを描いた物語である点だ。常識的な映画の尺を考えれば、それだけのボリュームの物語を収めるのは不可能だと言えるだろう。しかし、本作は物語の途中に10年ものインターバルを設ける事で問題を解消し、2時間に収めている。 もうひとつの本作の特徴は、主要な登場人物をダブルキャストにしている点である。これは物語の性質上、適切な処置だと納得するべきだろう。ただ問題なのは、主人公の杏のキャスティングが、少女の時が夏帆、大人になってからは松下奈緒という容姿や資質の共通点を見つけるのが困難な二人だという事である。 ただ、ここでも10年のインターバルが上手く作用している。ちょっと強引かも知れないが、夏帆が松下になった事が10年の空白を物語っていると解釈しても良いのではないかと思う。 本作の体裁は積年の想いが詰まった切ないラブストーリーである。だが、それだけではないのが本作の見るべきところであるだろう。それは拭えない過去の呪縛であり、それを元とする孤立・孤独感であり、そしてその事で苦しみ悩める者を取り巻く人間関係である。それらがラブストーリーと強く絡み合っている。 ラブストーリーを盛り上げる為に、無理矢理にでも難題を振り掛けて波瀾を仕立てる作品もある。そういった作品は時として作り手の思惑が透けて見えるようでイヤらしく感じる場合がある。しかし、本作はそういった作品とは違う。 一時期、「頑張れ」という言葉の是非が問題になったが、本作はその事をテーマのひとつとして掲げている作品であるだろう。確かに「頑張れ」と口にしてはいけない場合があるのは間違いない。だが、杓子定規に「頑張れ」を禁句すれば、すべてが解決するのだろうか? 深くて尊い人間関係を構築する為には相手への思いやりが必要になるのは言うまでもない。但し、もちろん思いやりがあるからといって、すべてが許される訳ではない。ましてや、思いやりとは自分を満足させる為のものではない。その辺りの見極めは、実際には中々難しいところなのかも知れない。 それに加えて難しいのは、相手に伝える作業は決して容易い作業ではないという事だ。なので必ずしも思い通りの結果に辿り着く訳ではないだろう。自分ではない他人が対象となるので当然といえば当然。冷たい言い方だが、所詮他人は他人。いくら誠心誠意、万策を尽くしてもすべてを伝える事は不可能なのかも知れない。 ただ一方で、そもそも受け取る側にその用意がなければ伝わるものも伝わらないだろう。伝わらないのは発する側だけではなく、受け取る側にも問題があるのかも知れない。繰り返しになるが、所詮他人は他人。何も自分が希望する事ばかりが発せられる訳ではないだろう。希望する場所で待ち構えるだけでは、相手の真心を見逃してしまう可能性もある。そうならない為には広く大きく構えていなければならない。 発せられた思いやりを受け取るのも、これまた思いやりではないかと思う。深くて尊い人間関係とは一方通行では成立しない。双方がしっかりと向き合い、歩み寄るからこそ成立する筈である。 物語の多くを主導しているのは夏帆が演じる杏である。この夏帆が実に素晴らしい。あどけなさと思春期の悩ましさがミックスされた演技は秀逸。判断するには尚早ではあるのだが、渾身の込められた本作の演技は年齢を考えると、もしかすると夏帆の少女時代の役者としての集大成と呼べるものなのかも知れない。 本作より以前に、佐藤めぐみ・小林涼子・美山加恋が年代別に杏を演じたテレビドラマが製作されている。このテレビドラマは昼の時間帯に放映された、いわゆる昼ドラである。長期を描いた物語と連続テレビドラマとの相性の良さはもちろんだが、物語が持つドラマチックな展開と昼ドラならではの劇的な演出もベストマッチ。本作とはまた違った良さを感じさせる。 |
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