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考えるな、考えるのは後だ 才能溢れる黒人少年と、遠い昔に名作小説を発表した事のある年老いた小説家との交流を描いた作品。 私の幼い頃の価値観の大きな規準は「皆と一緒」である事だった。「皆がやってるから」「皆が持ってるから」等の口癖は、単に欲しいモノを手に入れたいが為の言い訳だけではなく、自分の価値観に基づいた私なりの譲れない信念だったように思う。それだけ「皆と一緒」である事は、幼い日常で大きなウエートを占めていた。 本作の実質的な主人公である少年ジャマールも、どうやら幼い頃の私と同じ価値観の持ち主であるようだ。だが、ジャマールが私と根本的に異なるのは豊かな才能の持ち主である点だ。通常の学校の成績は、いつも一緒にいる友達に合わせてワザと低く抑えていたジャマールだったが、全高校生が対象となる学力テストでは高い点数を取ってしまい、教師に目を付けられ、高いレベルの高校への転校を勧められる。 そもそも勉強好きなジャマール。ただ、豊かな才能は勉強だけではなかった。ジャマールはバスケットボールの技術も優秀なのである。そしてバスケットボールに対しての向上心もある。転校を勧められた高校はバスケットボールの強豪校でもあった。 ここで面白く思ったのは、ジャマールは勉強の才能は隠すくせに、運動の才能や向上心は隠そうとはしない事だ。その心情も、私自身の幼き日々を振り返れば理解出来る。今となってはおかしな話だが、勉強が出来る子は疎まれる可能性を往々にして秘めていたと思うのだが、運動が出来る子は、それだけで一目置かれ、手放しで尊敬されていたように思う。 文武両道な天才少年ジャマールは陽の当たる場所に出る事、すなわち高いレベルの高校への転校を決心する。その決心に至るには様々な事情があったのだが、後押ししたのは隠居した天才小説家の老人に出会ったからである。隠居と言っても半端な隠居ではない。頑なに外出を拒み、物資を調達して環境が万全に整った自室で悠々と暮らす筋金入りの隠居生活である。 風変わりな隠居人ウィリアムは、ジャマールに文章の執筆のいろはを教える。だが、決して一方通行な関係ではない。ウィリアムもジャマールに出会った事で心境に変化が生まれ始める。 人は生きていれば多くの出会いを経験する。だが、留めもせずにやり過ごしてしまう出会いも多くあるだろう。もちろん、すべての出会いに対応するのは不可能だ。そして出会いにも善し悪しがあるのだと思う。 ただ、心を閉ざしていては何の進展もしない。善し悪しの判断すら出来やしない。出会いとは偶然なのかも知れない。しかし、意味ある出会いを引き寄せるのは自分自身。良縁に巡り会えば、自分自身が成長し、温かい絆が結ばれるのは言うまでもない。 不思議な師弟関係、もしくは世代を超えた友情を描いた作品にセント・オブ・ウーマン/夢の香りがあるが、本作との共通点を感じつつ、違いを見比べるのも面白いのではないかと思う。 |
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