自分勝手な映画批評
早春物語 早春物語
1985 日本 97分
監督/澤井信一郎
出演/原田知世 林隆三 田中邦衛 仙道敦子
高校の教室で写真の機材を片付ける瞳(原田知世)と麻子(仙道敦子)。麻子は自分の近況を赤裸々に話し始めた。

過去を持った女

過去に因縁を持つ、年齢の離れた男女の恋愛を描いた作品。

「早春」、すなわち新生活がスタートする春の初めは、期待と不安とが交錯する時期であろう。実際、本作の舞台となる季節は春ではあるのだが、少女が、不安を感じながらも期待に胸を踊らせて迎えた大人への入り口、それが、本作の意味する「早春」なのではないかと思う。

現在いる場所よりも上を臨む。知恵のある人間なら、それが良い事かは分からないが、背伸びして平静を装い、取り繕いながら馴染もうとするのかも知れない。しかし中身は、まだまだ追いついていない。

そんな大人の階段を昇りはじめる少し生意気な少女を原田知世が演じる。正直、原田知世の演技には、まだまだ未熟さを感じる。だが、その未熟さが、主人公・瞳の未完成でアンバランスなキャラクターに実に良くマッチしている。

但し、彼女の演技だけでは、単なるアイドル映画として終わっていただろう。彼女の演技を価値あるものとしたのは、相手役である梶川という男のキャラクターであり、演じた林隆三のお蔭であろう。

40歳過ぎの梶川は立派な大人の男。その事がしっかりとベースにありながらも、未婚のせいか、若い女の子とも波長が合う。この設定が絶妙であり、通常なら不釣り合いな関係がしっくりとくる。加えて、演じる林隆三のナイスミドルな貫禄は代替の効かない存在感であり、実に魅力的である。

本作は、主人公の少女の目線での「早春」に間違いないのだが、中年男にも「早春」は当てはまる。中年男にとっての「早春」は、少女との出会った事によって再び訪れた、忘れていた「青春」なのではないかと思う。だからこそ本作は、世代を越えた関係であるにも関わらず、甘酸っぱく初々しい春の匂いを感じさせる。


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