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後世に伝えなければいけない地獄 実在の人物、ユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの体験記を元にした作品。監督は自らもポーランドのクラクフでのユダヤ人ゲットーでの生活を体験したロマン・ポランスキー。 とにかくショッキングだ。特に前半は直視できないくらい残酷な描写が続く。戦時下ではあるが、決して戦場ではない地でこのような残虐な行為がなされていたのかと思うと心が痛まずにはいられない。正気の沙汰ではない。まさに地獄だ。 当たり前の事だが人を差別しては絶対にならないし、ましてや人種に基づく差別などもってのほか。しかし彼らにとってユダヤ人は同じ人間ではなかったのだろう。本作で描かれている非人道的な行為を行った人間を擁護する気はないのだが、その当時の状況下では支配する立場の者にとっては当たり前の思考や行動だったのかもしれない。間違った概念を持つ、もしくは植えつけられる恐さを痛感する。そしてその概念を助長さたであろう、片寄ったりプロパガンダされた教育や報道の恐さを思い知らされる。そして人として大切な事はそういった吹聴に左右されてはいけないのだと強く思う。悲しき戦争で得た教訓を、傷ついた方々、命を落とした方々の為にも後世に伝える義務と責任があるのだと思う。 後半は主人公の孤独が続く。ただの孤独ではない。常に怯え、命の危険にさらされ、決して安堵できない孤独だ。想像を絶する生活であろう。そして想像を絶する精神力だ。ドイツ人将校とのエピソードも実話を元にしているらしい。しかしこの心暖まるエピソードも戦時下ならではの事。そして将校の行く末も戦争の結果なのだ。 主役を演じるエイドリアン・ブロディのナイーブな容姿と演技はまさにピアニストであり、そんな彼が戦争に耐えている事が本作で大きな意味を成していると思う。彼はずるい生き方をした訳ではないのだが、敵と勇敢に戦った訳でもない。そのあたりがとてもリアルだ。私は彼の行動に対してうんぬん言う作品ではないと思う。ただただ、これが現実なのだと思う。本作の冒頭とラストでは彼の表情は明らかに違う。それが彼なりの戦いを物語っているのだと思う。本作でエイドリアン・ブロディは第75回アカデミー賞主演男優賞を受賞している。 |
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