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自分を好きになれた、だから、僕には君が必要なんだ 原作はジェイミー・レイディの手記「涙と笑いの奮闘記 全米セールスNo.1に輝いた〈バイアグラ〉セールスマン」。製薬会社のセールスマンとパーキンソン病を患う女性との恋愛を描いた作品。 本作にはアメリカの大手製薬会社ファイザーとイーライリリーが実名で登場する。これは原作の設定を再現する上で必要不可欠な措置だと思うのだが、その描写に少なからず驚きを覚えた。 両社を悪徳会社として描いている訳ではない。だが、必ずしも清廉な優良会社として描いてはいない。つまり、見方によっては企業イメージに傷がつく可能性もあるような描き方をしているのである。おそらく日本では有り得ない事だろう。細かい事なのかも知れないが、アメリカの文化の成熟を実感させられる描写である。 家電販売店をクビになったジェイミーは肩身の狭い思いをしていた。それもその筈。父親と姉は医者。弟も起業して成功していたのだった。そんなジェイミーは弟ジョシュの勧めで、大手製薬会社のファイザー製薬でセールスマンとして働く事となった。新人研修カリキュラムを終え、晴れてセールスマンとなったジェイミー。だが、担当となった病院では、ライバル製薬会社イーライリリー社のセールスマンが凄腕で、まるで取り合ってはもらえなかった。だが、持ち前のバイタリティーと調子の良さで徐々に病院スタッフを取り込むジェイミー。しかし、薬の購入の決定権を持つ、肝心のナイト医師だけには見向きもされなかった。それでも引き下がらないジェイミーは、ナイトに医療現場を学ぶ為に仕事を見学させて欲しいと頼み込み、授業料として1000ドル握らせるのだった。セールスのきっかけを掴んだジェイミーは、白衣を着て研修医という事でナイトに同行して病院の仕事を見学する。そこでジェイミーは、薬を貰う為に病院に訪れていた、26歳にしてパーキンソン病を患っているマギーという女性に出会うのだった。 本作には2つの顔がある。まずはヌードシーンをはじめとする性的な描写が頻繁に登場する過激な顔だ。本作はR15+指定の作品である。しかも、この過激な描写は作品のシリアスな部分にではなくコメディーな部分に多く作用している。なので本作の過激さは、下品とか下劣とかに属する類いのものである。 だが本作は、もう1つの顔で非常に純度の高いヒューマンラブストーリーを展開させている。片やブラックなコメディー、片やイノセントな人間ドラマ。どちらか一方の顔だけを用いて作品を仕上げるのが通常の手段である筈だ。しかし、相反するような要素を上手にミックスさせたのが本作であり、他の作品にはない、大きな特色になっている。 振り幅が大きい作品なので、バラエティー豊かな要素が詰め込まれている。それが本作の魅力だろうし、また、振り幅の間に生じるギャップも魅力であるだろう。ただ、本作最大の魅力は周到なストーリー構成ではないかと思う。 最初はブラックな面構えで物語は進行する。ブラックなコメディーはテンポが良く、低俗ではあるのだが笑いが絶えないので自然と物語に引き込まれてしまう。そして途中で迎えるイノセントな顔へのシフトチェンジ。シフトチェンジは急激ではないし、しかも、すでに物語に入り込んでしまっているので、対応に慌てる事もない。 実はブラックの効力はイノセントで発揮される。イノセントに移った事で、ブラックだった意味を痛感させられるだ。何故ブラックを装っていたのか? その理由が分かればイノセントに更に深みが増す事となる。また、イノセントな後半で、本当は意味深くありつつも口に出すのもはばかるような、ある意味でタブーな台詞があるのだが、その台詞が登場出来たのも前半に築いたブラックな土壌があればこそだと思う。 最初は馬鹿げたコメディーに下心を刺激されて笑わされる。だが次第に、しかも知らず知らずスムーズに観ている心情は変化をし、最終的には高揚して、ついついホロリとさせられてしまう。この、さりげなくも練りに練られた確かなストーリー構成は本当に見事である。 主役のカップルを演じるジェイク・ジレンホールとアン・ハサウェイが素晴らしい。実は難しいストーリーを、いとも容易くと思える程に、見事に具現化してしまう力量には感服。2人でなければ本作は成立しなかっただろう。ちなみに2人は、2005年公開の映画「ブロークバック・マウンテン」でも共演している。 脇を固めるキャストも物語を盛り上げる。ジョシュ・ギャッド、ハンク・アザリア、オリヴァー・プラットといった面々は皆個性的で味わい深い。クライマックスの大きな感動に辿り着くのは、何気ない彼らの好アシストがあるからこそである。 正直に言って私は、あまり期待しないで本作に臨んだ。だが、結果としては非常に大きな満足を得られた作品だった。私の満足度に期待値の低さが影響している事は確かだ。だがそれでも、いや、そういった事を踏まえてとした方が正しいのかも知れないが、思いがけず素敵な作品に巡り会えた感じている。その幸運に感謝したい。 |
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★前田有一の超映画批評★ |
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