自分勝手な映画批評
リリィ、はちみつ色の秘密 リリィ、はちみつ色の秘密
2008 アメリカ 110分
監督/ジーナ・プリンス=バイスウッド
出演/ダコタ・ファニング クィーン・ラティファ ジェニファー・ハドソン
クローゼットの中にいる4歳の少女リリィ。その外で両親が激しい喧嘩を始めた。はずみでリリィの前に拳銃が落ちる。リリィは誤って母親のデボラ(ヒラリー・バートン)を撃ってしまった。

心の準備ができるまで…

原作はスー・モンク・キッドの「リリィ、はちみつ色の夏」。心に傷を抱えた白人の少女と黒人家族との交流を描いた作品。

舞台は人種差別が根強く残る1964年のアメリカ。悲しい時代が本作の根底にはある。当時、辛く苦しい思いをした人にとっての、いつまでも忘れる事の出来ない記憶としてはもちろんだが、人種の問題をすべてクリア出来ているとは言えないのかも知れない現代に、こういった作品を語り継ぐのは有意義であろう。

悲しい時代の現実が、少女に直面する。もっとも少女ならではの偏見のない博愛はその現実を最初から超越させていたと言っても良いのかも知れない。但し、少女も幸せな環境で暮らしている訳ではなかった。

重い十字架を背負い、崩壊した家庭に生きる少女リリィは、そこからの脱出を試みる。彼女には知恵がある。屈折してしまった幼い心は、皮肉にも豊かな感受性と想像力を育んだと言えるのかも知れない。

そんな彼女が巡り会う、苦しい時代の中でも胸を張って生きる黒人の家族。その家族と暮らし、目一杯、綺麗な空気を吸い込む事が出来る環境を得たリリィだが、固く閉ざされた少女の心は、容易く解放される訳ではない。そして迎え入れてくれた家族も問題を抱えていた。

子供らしさもあるのだが、どこか大人びた少女リリィ。そんな難しい役柄である主人公をダコタ・ファニングが実に素晴らしく演じている。もう子役と呼べる年齢ではないのかも知れないが、まさに子役の範疇には収まりきらない技量を見せつける。暗い過去から逃れられない少女の複雑な心情を、抑えた細やかな演技で表現している。

あくまでも私見であるが、ラストに関しては、違った結末を用意出来たのではないかとも感じた。ラストシーンを幸せに感じるのか、寂しく感じるのかは、もしかしたら観る人によってかなり違うのかも知れない。但し、少女が辿り着いたのは決意である。そう考えると、それまでの重みが改めて実感出来るのだと思うし、物語を結ぶのには相応しいのではないかと思う。


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