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「たそがれ」にスーツケースはいらない 南の島の宿に集う人たちの心の交流を描いた作品。監督の荻上直子とキャストの小林聡美・もたいまさこは荻上監督の前作「かもめ食堂」のメンバー。主要キャストが皆メガネを掛けているのがタイトルの由来らしい。 ゆったりとした空気感の中、物語は進んで行く。キーワードは「たそがれ」。そして「たそがれる」のに荷物はいらない。このストーリー内のコンセプトを地で行くがごとく、本作に説明じみた設定は皆無。必要以上に設定が排除されている為、謎は多い。だからと言って謎解きではない。考える余地をコチラ側にあるのだが、必ずしもそれを求めている訳でもないような気がする。ほんわかした雰囲気の中、あたかも自分がそこに居るような不思議な臨場感を覚える。 「たそがれ」とは夕暮れのことである。太陽が沈み暗くなる頃。そこから生じて盛りを過ぎて終わりに近づこうとする頃の意味でもある。さらには、そこから派生して、終焉を迎える感情として、感傷に浸る、もっと言えばボーっとするといった時にも用いられているようにも思う。持論ではあるが、「たそがれ」とは少し曖昧な言葉なのではないかと思う。しかし何にせよ「たそがれる」のには、それなりの理由があるのだろう。 昔は女性の一人旅は訳ありとされ、自殺でもされてはたまらないと思ったのか、宿泊を断られることも多かったらしい。泊めてもらえた場合には、気分を盛り上げさせようということで、逆にサービスが良かったりすることもあったらしい。今はそういったことはあまりないのかもしれないが、本作には訳ありで「たそがれ」を求めて来たであろう女性客に対する配慮が描かれている。だからといって無理強いしない。お伺いはたてるが、断られれば尊重し、すぐに引き下がる。ここら辺の優しさの描き方はさりげなく、すごく繊細に感じた。 曖昧なキーワードといい、大胆に欠落した設定といい、不明な点は多い。しかし、語弊があるかもしれないが、いい年齢した大人なら多少の困難はあるだろうし、その困難も自分で解決できるだろう。そう考えてみると、本作の踏み込んで描かない不親切さは大人の物語の証ではないかと感じる。そしてして押し売りしない優しさも大人ならではなのだと思う。 小林聡美は魅力的な女優だと思う。様々なタイプの役柄を演じられる彼女の才能の一端を本作でも大いに示してくれている。本作でメガネを役づくりに一番活かしている小林聡美ではないかと思う。安易な言い方だがメガネの演技が完璧に様になっていた。いくつかヒントがちりばめられていたにせよ、説明不足分の想像力を駆り立てるのは彼女の優れた演技力である。 加えて、くだらない観点ではあるが、小林聡美と薬師丸ひろ子の共演が少し嬉しかった。彼女たちは1つ違いの同世代。タイプこそ違えど少女時代から活躍している彼女たちのマッチアップのサプライズはちょっとした遊び心のように感じた。 |
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