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やっぱり野球にはロマンがある 原作はマイケル・ルイスの著書「マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男」。メジャーリーグベースボール球団のチーム編成の責任者であるゼネラルマネージャー(GM)が、画期的なプランを用いて仕事に奮闘する姿を描いた作品。内容は実話を元にしており、実名で実在の人物(演じるのは俳優)も登場しているのだが、フィクションも交じっている。 劇中のテレビ画面にマリナ−ズ時代のイチローの顔が映し出されるシーンがある。それは、ごく一瞬なのだが、それでもハリウッド映画、しかもブラッド・ピット主演作品に映し出されるのは普通なら大変貴重で名誉な大事件であると思う。 だが(本当は意図していたであろうが)偶発的ともいえる僅かな出演は、今更イチローのキャリアにプラスに作用する事はないだろう。そんな事をしなくてもイチローの築いたキャリアは磐石であり、燦然と輝いているのは言うまでもない。 ちなみに、物語の舞台となるチームはアスレチックスなのだが、本作公開当時、アスレチックスには松井秀喜が在籍しており、その関係で松井はピットと対面している。 2001年シーズンに低い年俸の選手ばかりを集めたチームでありながら、ア・リーグ西地区の2位に入り、ワイルドカードでディビジョンシリーズに進出する健闘をみせたアスレチックス。だが、シーズンオフに主力であるジアンビ、デイモン、イズリングハウゼンの3選手が抜け、2002年シーズンは苦しい戦況が予想された。そこでアスレチックスのGMであるビリー・ビーンは、抜けた3選手に代わる有力選手を獲得する為に球団オーナーに予算のアップを申し出る。しかし、アスレチックスは貧乏球団。ビリーの申し出に、オーナーは首を縦には振らなかった。だが、抜けた3選手の穴は埋めなければならない。新しい戦力の獲得に奔走するビリーは、インディアンスのマーク・シャパイロGMに会いに行く。その会談で目当ての選手の獲得に成功しかけたのだが、その場にいたスタッフの助言で御破算になってしまった。会談後、ビリーはインディアンスのオフィスいたマークに助言したスタッフのところに行き、助言した内容を問う。そのスタッフ、ピーター・ブランドは新米であり、ビリーの圧力に最初はたじろぐのだが、次第に持論を展開させていく。その斬新だが確固たる理論に共鳴したビリーは、ピーターをインディアンスから引き抜き、アスレチックスのスタッフに招き入れるのだった。 本作は野球という競技そのものではなく、言わば競技の裏側、チーム造りの実情に重きを置いた作品である。 チーム造りの指標となるのはビル・ジェームズという人物が1970年代に提案したセイバーメトリクスという理論。この理論は野球を統計学で客観的に分析し、勝利への有効性を導き出す理論である。 そんな理論への着目は、野球好きの人の興味を引くところではないかと思う。特にセイバーメトリクスを知らない人には有意義な作品であり、本作をきっかけに、もっと知識を深めたいという欲求に駆られるのかも知れない。 ただ大局的に見れば、この理論が物語のポイントになっている訳ではない。劇中の台詞にも登場するのだが、真のポイントになるのは新しい理論を掲げる新体制と既存の理論を固持する現体制という2つの体制の存在であり対立である。 これは野球界ばかりではなく、世の中の様々なところ、あらゆる状況で存在している様相である。なので、他の問題に置き換えられる事が容易であり、野球に詳しくない人でも本作の構造は身近に感じる事が出来るだろう。 裏側を主体に描いた事は、違った面でも効力を発揮していると思う。それは野球のパフォーマンスの描写に関してある。 野球に限らずスポーツをテーマにしている作品は多いが、ほとんどの作品で残念ながら競技の緊迫感や臨場感を再現出来ていない。また、演じる俳優の本物のアスリートから掛け離れた華奢な体格にも興醒めしてしまう。 だが本作は、裏側を主体にする事で野球のパフォーマンスの描写を極力省略している。従って、パフォーマンスの描写に大きな不満が募る事もない。意識していたのかは分からないが、結果的にスポーツ作品のウイークポイントを覆い隠す事に成功していると言えるだろう。 とはいってもスポーツをテーマにした作品であるのは間違いない。本作の基調にある清々しいスポーツマンシップ。スポーツマンシップに基づく健全な爽快感が本作にはある。加えて、ドラマティックな展開とハリウッド流とも言うべきツボを押さえた演出が、確かな見応えと満足度をもたらす。 野球好きの人はもちろんの事、そうでない人も大いに楽しめる作品ではないかと思う。 |
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★前田有一の超映画批評★ |
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