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重きは名誉 刑務所を脱獄した男の姿を描いたクライム・サスペンス。原作はジョゼ・ジョヴァンニの「おとしまえをつけろ」。1966年に公開されたジャン=ピエール・メルヴィル監督の「ギャング」のリメイク。 日本のヤクザ映画に通じる部分がある作品だと思う。但し、お国柄の違いなのだろうか、随分と違う印象を感じる。どちらが良いという訳ではない。同じ食材を使っているが、日本料理とフランス料理とでは異なるように、日本とフランスの作風の違いが表れているようで面白い。 とにかくストーリー展開が実に秀逸である。刑務所を脱獄した主人公のギュ。ギャングの大物であった彼が戻った先では事件が起きていた。基本的にはこの事件はギュとは何ら関係はない。しかし、狭い世界である暗黒街、また、掟の厳しい暗黒街では無関係とは言えなかった。 一方、ギュ自身も根本的な問題を抱えている。いくら脱獄したからからと言っても、自由の身である訳ではない。彼は安息の地まで逃走しなければならない。この綱渡りな逃走劇を軸に、簡単ではない暗黒街の人間関係と、さらには、ギュを追い掛けるパリ市警のキレ者ブロ警視の存在が絶妙に絡み合って行く。 また、時代も本作に大きな影響を及ぼしている。現代では考えられないような非常識な行いが物語を潤滑に進行させて行く。それは、決してご都合主義ではない。人権を蔑ろにするような前近代的な恐さが、サスペンスの色を濃くさせる。 出演陣が実に素晴らしい。脱獄犯である主人公のギュを緊張感たっぷりにダニエル・オートゥイユが演じ、逆に彼を追うブロ警視をミシェル・ブランが知的に、余裕をもって演じる。ギュの昔馴染みオルロフにジャック・デュトロンが落ち着きある深みを与え、また、エリック・カントナは、サッカーのスーパースターであった事など忘れさせる程、用心棒役に成り切っている。そんな中での紅一点のモニカ・ベルッチだが、彼女の主張し過ぎない存在感もまた良い。 1960年代のフランスを舞台にした本作は、服装、車、街並、小物等々、ノスタルジックな粋なセンスに満ち溢れている。だが基本は男の物語だ。変な言い方だが、男であるが故に葛藤する男たちを描いた物語。裏社会で生きる男は、何よりも勝って男でなければならない。スタイリッシュな映像とスリリングな展開の中に大人の男の苦味がギッシリと詰まっている。 |
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