自分勝手な映画批評
街の灯 街の灯
1931 アメリカ 83分
監督/チャールズ・チャップリン
出演/チャールズ・チャップリン ヴァージニア・チェリル ハリー・マイヤーズ
「平和と繁栄」の記念碑の除幕式が多くの市民の前で盛大に執り行なわれている。いざ、幕を取り払うと、放浪者(チャールズ・チャップリン)が記念碑に横たわって眠っていた。

いつまでも大切にしたい珠玉の名作

放浪者の盲目の女性に対する恋心を描いた作品。

1930年代の作品、しかもサイレント映画にもかかわらず、今も尚、惨然と輝く、また、後世にも、しっかりと残しておきたい、決してオーバーではなく、映画界の宝のような作品だと私は思う。

この優しくも切なく、でも笑い溢れる作品は、サイレントでモノクロだから成し得たと言えるのではないかと思う。一見、不便な状況下ではあるのだが、その事を逆手にとって活かされた、最大限の想像力とセンスを持って素晴らしい物語を創造している。

ストーリーは、まるで教科書のようなエンターテインメントの王道だ。その基調になっているのは、盲目のヒロインに対する足長おじさん的な慈善心。ただし、その想いの中には恋心も多分に含まれており、慈善心と恋心が合わさって、心温まる、ロマンティックなラブストーリーが成立する。

だが、それだけでは終わらない。男は、他人を援助するどころか、自分の生活さえままならない浮浪の身。そんな男の奮闘振りには、自己犠牲・献身の美しさを感じさせ、さらには、痩せ我慢な男のロマンさえ漂う。

そんな彼の前に現れたのが、二重人格の大金持ち。この二人の関係が、コメディー部分を引率して行く。コンビネーション抜群で、とにかく楽しく面白い。ただし、ただの賑やかしではない。チャップリン演じる男の人間性を、より浮き彫りにする効果をもたらしているだろう。

チャップリンと盲目のヒロインだけをクローズアップしない点は、物語に広がりを与え、実に効果的なのだが、それでも比較的シンプルなストーリー構成になってしまうのは、サイレント映画の限界だろう。しかし、その言葉を使えないストーリー展開を、細やかな演技と演出が巧妙に補い導いて行く。皮肉にも、台詞が使えない状況下ゆえに、映画の、演技の醍醐味を味わう事が出来る。

本作には素晴らしいラストシーンが用意されている。この結びがあるからこそ、本作は至高の極みまで登り詰めたのだと思う。ただし、安直な結びではない。このラストシーンの中にもドラマが詰まっている。

このシーンでヒロインのとった行動は、少々嫌に感じるかも知れない。だが、その行動は、時間の経過を感じさせ、また、格差の存在と、格差に対する一般的な意識も感じさせる。と、するばらば、チャップリンの優しさの深さが、より一層感じられるだろう。チャップリンの魅せる万感の表情に、涙を留めて置くのは難しい。


>>HOME
>>閉じる



★前田有一の超映画批評★

おすすめ映画情報-シネマメモ