自分勝手な映画批評
マイケル・ジャクソン THIS IS IT マイケル・ジャクソン THIS IS IT
2009 アメリカ 111分
監督/ケニー・オルテガ
出演/マイケル・ジャクソン
2009年4月15日。コンサートのオーディションに来たダンサー達が、次々に、コンサートへの想い、マイケル・ジャクソンへの想いを、カメラに向かって熱く語り始めた。

王位に君臨し続けた理由

マイケル・ジャクソンの急死により実現されなかった、ロンドンで開催される筈だったコンサートのリハーサル風景を収めたドキュメンタリー。

このコンサートは、実現すれば、マイケルにとって12年振りとなる、久々のコンサートであった。また、記者会見でマイケル自身「最後のライブ」だとも発言していた。そういった事を考えると、もし実現していれば、様々な意味で特別なコンサートになる筈だったであろう。

本作の冒頭で、本作は「マイケルの魂のこもった贈り物」だというテロップが流れる。本作は、そのメッセージの通り、リハーサル風景でありながら、マイケルらしいショーマンシップに基づいた、エンターテインメント性の高い作品になっている。

それは、本作が、手探り状態のリハーサル風景ではなく、本番のテンションまでにはいかないものの、ほぼ本息でパフォーマンスが行われ、途中でストップする曲もあるのだが、多くが一曲通してパフォーマンスされているからである。リハーサルであるので、当然、ダンサーをはじめとする演者はラフな服装なのだが、マイケルの独特なファッションは本番の衣装に見間違う程である。本番さながらに見えてしまうのは、その辺りも影響しているのだと思う。

まだまだ形になっていない、試行錯誤を繰り返すリハーサル風景だとしたら、それはそれで、大変興味深くはあるのだが、ショー的要素が排除された、ある意味マニアックな作品になっていただろう。だが、ある程度完成された、さながら無観客コンサートといった趣で、マイケルの代表曲が次々と演じられるのは、イレギュラーさも相まって、何とも贅沢だ。

そして何より、生前、様々な騒動で世間を賑わせもしたが、そういったところで存在感を示すのではなく、あくまでもパフォーマンスでエンターテインメントを実現しようとしていた彼の意志が尊重され引き継がれた、まさに「魂のこもった贈り物」の名に相応しい、彼らしい作品なのだと思う。また、その観点から思考を巡らすと、実現出来なかったコンサートを楽しみにしていた人達への、詫びを込めたプレゼントのようにも思えてくる。

もちろん、リハーサル風景なので、裏側もしっかり見せてくれる。曲の間に発せられるマイケルの言動や、スタッフ達の証言によって、マイケルの人物像に迫れるのが興味深い。

このコンサートには、ステージを統括する立場の人がいるとは思うのだが、それでもマイケルのコンサートであるのだから、彼の意志があって当然。マイケルがどのように魅せ、どのように観客を楽しませようとしているのか、エンターテイナーとしての姿勢が伺える。

マイケルはシンガーであり、詞・曲を作るソングライターであり、ダンスで魅せるパフォーマーである。だが、それらの肩書きでは収まりきれない、表しきれないので「キング・オブ・ポップ」の称号を得たのだろう。語弊はあるかも知れないが、日本的に言えば「究極のアイドル」といったところではないかと思う。だが、誰かに作られ、操られたアイドルではない。ステージや作品に臨む志しの高さこそ、「キング・オブ・ポップ」である所以であろう。

さらに続けると、彼の弛まぬ努力も「キング・オブ・ポップ」である所以だ。それが端的に表れているのが、年齢に似つかわしくないパフォーマンスの高さだ。本作のマイケルは、なんと50歳。本番ではないので、力強さは少々欠けるものの、それでも到底50歳とは思えぬ、体力としなやかさを見せつける。どれだけ摂生しトレーニングを積んでいるのかが、映像を通じて立証されている。

ただ、それらは単に仕事に対する姿勢ではない。マイケルの持つ人間としての資質がそうさせているのだろう。彼の発する言葉の節々に感じられる愛情。それこそが「キング・オブ・ポップ」の根幹であったのだろう。

マイケルは、トップの中のトップであったゆえに孤高の存在でもあったであろうと安易にも想像出来る。しかし、本作では、そうではない一面も覗かせる。自分の出番ではない時に、観客としてマイケルのリハーサルを見つめるダンサー達は、目の前のマイケルに、いちファンとして熱狂し歓声を挙げる。それにつられて、リハーサルにも関わらず、ついつい熱が入るマイケル。

「キング・オブ・ポップ」と、マイケルに焦がれて集まった、失礼な言い方だが「オーディションダンサー」には計りきれない距離があるだろう。ただ、こういった光景を見ると、良いチームワークだったように思うし、同時に、マイケルの「キング・オブ・ポップ」ではない、素朴な人間味も感じとる事が出来る。

皮肉にも、本作が日の目を見たのは、マイケルの死があったからであろう。そういった事情を考えれば、実に悲しく、やるせない作品だ。ただ、彼の死を痛みつつも、不謹慎かも知れないが、本作で魅せる彼の姿に酔いしれ、興奮してしまう。死しても尚、私達に喜びを与えてくれる、まさに永遠の「キング・オブ・ポップ」なのだと思う。

本作のような映像があったという事は、もしかすると、以前のコンサートのリハーサル風景も残している可能性もあるのではないかと勘ぐってしまう。もし、そうならば今後、まだ、知らないマイケルに出会えるのかも知れない。

それにしても、マイケルのスキャンダラスな面をネガティブに扇動していたのに、彼が亡くなると、手のひらを返すように聖人のように取り上げるマスコミの姿勢には、強い憤りを覚える。


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