自分勝手な映画批評
ミルク ミルク
2008 アメリカ 128分
監督/ガス・ヴァン・サント
出演/ショーン・ペン ジェームズ・フランコ ジョシュ・ブローリン
1978年11月18日金曜日。ハーヴィー・ミルク(ショーン・ペン)は暗殺された時の事を考え、自分の思いをカセットテープに吹き込んでいた。

ムーブメントの功労者

実在の人物、同性愛者の政治家ハーヴィー・ミルクの半生を描いた作品。

半生といっても本作で描かれているのは約8年間の出来事である。それでも、濃い8年間を描くには、時間の限られた映画というパッケージは小さすぎるだろう。しかし、それでも本作は上手く整頓して作品に詰め込んでいるように思える。

恥ずかしながら知識に乏しい私は、ハーヴィー・ミルクを本作を通じてしか知らない。そんな私が本作から感じる彼の印象は、決して聖人君子ではない。だからといって悪事を働いている訳では決してないのだが、目的を実現させる為にはテクニックも駆使する政治家らしい一面を覗かせる。

だが、彼の目的は功名ではない。もっと根本的な、彼自身が生きる為に必要不可欠と感じる事である。それは個人的で利己的だとも言えるのかも知れないが、そもそも、そういった個人的な主張が出発点になるのは自然だと思うし、自分と同じような境遇で、同じように苦しむ人々の為に立ち上がり、身を粉にして働く事は、本来の政治家としてあるべき姿のひとつではないかと思う。

だが、そこには、私人から公人になる環境の変化も出てくる事であろう。それは決して良い事ばかりではないだろう。逆にひとりの人間としての生活を考えれば悪い事の方が多いのかも知れない。目的を達成する為に、大切なものを犠牲にしなければならない。そんな痛みも本作には描かれている。

志半ばで散った彼だが、もし生きていたなら、どういった政治家になったのか、一個人として、どういった人生を歩んだのか、是が非でも見たかったと思う。

特殊メイクなのか、演技なのか、8年間の月日を感じさせるのは見事。比較的短い月日とは言えるだろうが、ショーン・ペン、ジェームズ・フランコには明らかに見た目に変化が現れている。激動の日々は、陽に当たるところばかりではない事を、深く印象づける素晴らしい演技であり演出だと思う。

本作は第81回アカデミー賞の主演男優賞(ショーン・ペン)と脚本賞(ダスティン・ランス・ブラック)を受賞している。


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