自分勝手な映画批評
間宮兄弟 間宮兄弟
2006 日本 119分
監督/森田芳光
出演/佐々木蔵之介 塚地武雅 常盤貴子 沢尻エリカ 北川景子
明信(佐々木蔵之介)が自転車で訪れた陸橋には、新幹線の操車場を寂し気に眺める弟の徹信(塚地武雅)の姿があった。

正しい事に向かって、まっすぐに生きたいんだ…

原作は江國香織の小説。一風変わった兄弟を中心としたハートフルなコメディー。

本作の素晴らしさは、登場人物のマニアックなキャラクターが活き活きと描かれている点であろう。特に間宮兄弟のキャラクター、ブラザーコンプレックスとも言われかねない程のお互いの溺愛っぷり、兄弟でありながら友人のようであり、恋人や夫婦のようであり、はたまた小学生同士のような間柄は、気持ち悪さを通り越して微笑ましく思えてしまう。オタクとも呼べるような二人の趣味の数々も本作の不思議な雰囲気を高めている。そんな二人が住む本に囲まれた居心地のよさそうな部屋は、どこかの映画のニューヨークのアパートの一室を思わせる。

兄・明信は佐々木蔵之介にとってハマリ役と言えるだろう。彼はユーティリティープレーヤーとして映画・テレビドラマ問わずに様々な役柄を演じているのだが、本作のような少し頼りなさげでひょうひょうとした役が一番しっくりくるのではないかと思う。

私的な本作の一番の収穫は弟・徹信を演じたドランクドラゴンの塚地武雅だ。お笑い芸人やコメディアンの俳優業への進出は、もはや珍しいことではない。もちろん先駆者達の優秀さは十分に認めるのだが、ただ、テレビの顔とは違うシリアスさ、振り幅のギャップも評価に影響しているのではないかと思う。本作の塚地もテレビの顔とは違うのかもしれない。しかし、あくまでもコメディアン然としたユーモアを見せてくれて、笑いという結果を残しているところが素晴らしい。しかもチャーミングさが加味されているからなお素晴らしい。彼の表情や仕種は実に可愛らしく映し出されている。

マニアックなのは間宮兄弟だけではない。常盤貴子が演じる小学校教諭も面白い。彼女の場合、裏の顔と言ったら大袈裟だが、小学校教諭の一女性としての人間性が描かれている。私自身を鑑みると、小学校の先生は小学生だった私にとっては先生以外の何者でもなかった。だが、もちろん、先生にも職場(学校)以外の実生活がある訳で、私の先生は一般の大人としてどんな人だったのだろう? などと思ったりもしてみた。

しっかりと正対している訳ではないのだが、間宮兄弟と直美・夕美姉妹との対比も興味深い。間宮兄弟が見た目での共通点が見当たらないのに対し、直美・夕美姉妹を演じた沢尻エリカ・北川景子はどことなく似ている。逆に、内面は間宮兄弟が似ているのに対し、直美・夕美姉妹はどことなく違う。このコントラストも良い塩梅だ。しっかりした姉とはじけた妹。妹・夕美役の北川景子も適役だろう。

本作には、さして本筋とは関係のないアドリブのようなリアルな会話シーンが所々にあり、作品の雰囲気に良い作用をもたらしている。その主は間宮兄弟なのだが、沢尻エリカもシーンのリアリティーの一役を担っているように感じる。彼女の魅力的な声質での言い回しは見事なまでに自然であり、そのことだけでも優れた女優であることを証明しているように思える。

上記以外のキャストも総じて良い。まさにこの親あってのこの兄弟といった感じの母親を演じる中島みゆき。恵まれた体格と体育会気質の持ち味を遺憾なく発揮したオーバーアクションな先輩役の高嶋政宏等、実にイイ味を出している。

本作には過ぎる演出もあるが、許容範囲ではないかと思う。冒頭と終盤に同じようなシーンがあるのだが、決して同じではない。おそらく同じ状況に至った事を暗に示しているのだろう。独特なリズムのユーモアが本作の魅力だと思うのだが、このようなさりげないセンスが根底にあるからこそ本作の面白さが生きてくるのだと思う。

人情と聞けば下町やら田舎を想像してしまうが、マンションの一室でもしっかりと生息しているのは嬉しく思う。昔ながらのとは少し違うのかもしれないが、この人情も大変温かい。良い作品だと思う。



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