自分勝手な映画批評
現金に体を張れ 現金に体を張れ
1956 アメリカ 85分
監督/スタンリー・キューブリック
出演/スターリング・ヘイドン マリー・ウィンザー エリシャ・クック
9月最後の週の土曜、午後3時45分。レースが開催中の競馬場でマービン(ジェイ・C・フリッペン)はバーテンダー(ジョー・ソウヤー)にジンジャーエールを注文しつつ、あるメモを渡した。

この計画はジグソー・パズルだ

原作はライオネル・ホワイトの「逃走と死と」。現金強奪計画の行く末を描いた作品。

数人で構成されるチームで遂行される手際の良い犯罪計画を丹念に描く。本作で用いられているのは現代でも多く見受けられるフォーマットである。驚くのは、その完成度だ。古い作品は、時として歴史的な価値しか見出せない場合がある。確かに本作でも時代を感じさせる面は往々にしてある。だが、現代の感覚でも存分に楽しめる完成度を誇っていると言えるだろう。

5年間の刑務所暮らしを終えて出所したてのジョニーが中心となり、それぞれの事情で問題を抱えた者たちが集まり、競馬場の売り上げ金を強奪する計画が企てられていた。もちろん他言は厳禁。しかし、メンバーの一人で不仲の妻を振り向かせたいジョージは、妻の口車に乗り計画を話してしまった。

古い作品でありながらも完成度の高い本作。まずは物語の柱である実行される計画の細やかさが良い。時代が違うので本作の計画が、そのまま現代で通用するのは難しいのかも知れない。だが、それでも緻密な計画と実行力には目を見張るものはある。

そして物語の進め方も良い。計画の全貌は当初で明らかにしていない。計画を実行する事により明らかになるのである。なので先の見えないスリルが常につきまとっている。時刻を意識させる事も緊迫感を演出している。また、多岐に渡る計画を描く為に時系列を前後させる等する創意工夫がある。但し、策に酔いしれるかのように、いたずらに複雑になっている訳ではない。この辺りも好感が持てるところである。

また、優れた計画の遂行の様子を一目散に追うばかりではなく、人間模様にも重きを置いている点も良い。そもそも犯罪計画に加わるのは真っ当ではなく、クセのある人間であるだろう。言ってみればキャラクターの宝庫。この旨味を逃す術はない。見方によっては、この人間模様こそが本作の一番の見どころだとも言えるだろう。

物語に広がりを与える為の人間模様なので、キャラクターが画一的では台なしである。その辺りは、しっかりと熟慮されており、千差万別な登場人物が作品を彩る。中には同情を誘う登場人物もいる。ただ、ここでのポイントは計画の遂行に波瀾を与える登場人物だ。観ているとイライラが募る一方なのだが、それこそ作り手の思うツボであるだろう。

85分という比較的に映画としては短い尺に収めているのも良い。一貫性はあるものの、本作で描かれている事柄は多い。それを首尾良く詰め込みコンパクトに仕上げている手腕は見事。スピーディーでスリリングな展開は、このパッケージングによる効果も大きいだろう。


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