|
||||||||||||
なーんてね 原作は湊かなえの小説。娘を生徒に殺された元教師の女の復讐劇を描いた作品。 少年の犯罪が描かれている本作。そういった状況で必ずといって良い程問題となるのは少年法である。 大人と子供の境目は法的には年齢によって引かれる。しかし、必ずしもそこで分けられないのが現実であるだろう。大人の年齢に達していても子供な人はいるし、逆に子供の年齢であっても大人な人はいる。だとしたら極端な話、境目を設けた意味はなくなる。 もちろん実際には、境目を設けた事がまるで無意味な訳ではない。例えば、法で定めた大人の年齢に達した事によって、大人としての自覚を促す効果があるだろう。また、思慮の浅い子供を守る効果もあるだろう。だが、ズル賢い解釈によって、悪意に満ちた使われ方をする可能性も否めないであろう。 個人、社会を守るのが法律である。だが、万能でないのも法律である。本作で提示している件に限った事ではないのだが、極論すれば、法律のジャッジに行き着く前にすべき事を考え万事を尽くす、言い換えれば、法律の世話にならない生き方を心掛けるべきなのかも知れない。いくら法律が守ってくれるといっても、すべてを元通りにしてくれる訳ではない。 3学期の終業式の日、1年B組の担任である森口はホームルームの場で教師を辞める事、その決意へと辿り着く経緯を生徒たちに語り始めた。森口はシングルマザー。結婚しなかったのは、夫となる筈の男がHIVのキャリアだった為であった。その男との間に儲けた娘を一人で大切に育ててきた森口。しかし、その娘はこの学校のプールで死んでいるのを発見されてしまった。警察は事故死だと判断したのだが、森口は独自の調査で事故死ではなく殺人であり、犯人はこのクラスの2人の生徒である事実を突き止めていた。しかし名前を公表するつもりはない。だが、森口の話の内容から犯人が誰なのかは生徒たちに分かってしまった。もちろん、森口は動機も状況も知っている。しかし警察に通報するつもりもない。但し、森口は2人が今飲んでいた牛乳の中に、夫となる筈だったHIVキャリアの男の血液を混入したと告白するのだった。 本作は、非常に特種でいびつではあるのだが学園モノにカテゴライズされる作品だと言って良いだろう。大人の、あるいは常人の意識の範疇を超えた子供たちの異様な世界を舞台にした物語。しかも、常識ある大人がそのステージまで降りて子供に対峙するので収拾がつかなくなる。 ひとことで言えば、決して気分の良い作品ではない。観ていて世の中が嫌になる作品だ。本作で描かれている世の中が一般的な訳ではないだろう。しかし、本作のような世の中に成り得る可能性も往々にして秘めていると感じさせる。もしかしたら、ひと皮剥いただけで、本作のような世の中が姿を現すのかも知れない。そんな恐怖に苛まれてしまう作品である。 とにかく展開は負の連鎖でしかない。そして、それを趣味悪く楽しませるように仕組んでいる作品だと言っても良いのかも知れない。そんな物語に中島哲也監督の手腕が冴える。気味の悪いストーリーはもちろんなのだが、視覚・聴覚に絶妙に語りかけながらテンポ良く進行させる演出で、常軌を逸した異次元のミステリーへと引きずり込んで行く。 作中で物語を牛耳るのは、松たか子が演じる主人公の元教師。松たか子は女優魂を見せつけるように役柄に没頭し主人公を好演している。但し、実は登場場面はそれ程多くはない。物語は元教師が一歩引いたところから動き始めるので、自然と主体は子供たちとなる。 その子供たちの演技がこれまた素晴らしい。名の知れた大人の俳優たちを食ってしまうような演技で魅了する。彼らの子供らしからぬ演技の素晴らしさがあるからこそ、狂気と恐怖が充満した、悪意の塊のような本作が成立していると言っても過言ではないだろう。 |
>>HOME >>閉じる |
|||||||||||
★前田有一の超映画批評★ おすすめ映画情報-シネマメモ |
||||||||||||